取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
由美さん(仮名・62歳)は、夫の退職後にスーパーのパートとして1日4時間働いている。そこで明るく元気なベテランパートの素子さん(59歳)と知り合う。仕事を通じて信頼関係が育まれた素子さんに、夫のグチなどを話してしまう。
【これまでの経緯は前編で】
仕事がデキる私を嫉妬して、足を引っ張っているのではないか
由美さんは総菜調理の仕事に向いていた。専業主婦を35年間も続けており、調理に慣れていたからだ。夫が料理にうるさく、おいしそうに盛り付ける仕上げができた。由美さんがパートに入ってから、総菜の売れ行きが伸び、客からも反応があったという。
「そんなことを店長に言われると、やる気になりますよね。認められていると思って、ますます張り切るように。店長は、“私を見習ってやるように”と周囲の人にも言ったそうです」
上機嫌で仕事をする由美さん。働いた経験が少ない由美さんが見落としていたのは、“職場の嫉妬”だった。嫉妬されるような仕事をしてしまうと、足を引っぱられる。
「みんながなんとなくよそよそしくなっているとは感じていました。でも、素子さんはずっと平らなまま。これまで以上に優しくしてくれたし、フォローもしてくれたんです」
3か月ほど親密な関係は続いた。夫に夕飯を食べさせた後、こっそり家を出て、素子さんとファーストフードでコーヒーを飲んでおしゃべりすることもあった。
「素子さんは20年前に離婚していて、成人した息子さんがいることも知りました。びっくりするほど家賃が安い都営住宅に住んでいて、私とは全く違う生活をしていたんです」
素子さんと親密になればなるほど、由美さんの職場での立場は悪くなっていった。
「具体的になにがどうということはないんです。無視されることもありましたし、私だけお土産のお菓子がもらえなかったり。そうするとホントに悲しい気持ちになるというか……。“由美さんが来てから、時給以上に働かなくてはならなくなった”というようなことを遠回しに言っているのを聞いたり。無言の敵意みたいなものを感じたときは、辛かったですね」
【「奥様なんだから働かなくてもいい」「私たちを見下している」……次のページに続きます】