人生100年時代のいま、長く人生を楽しむためには、健康寿命を延ばすことが重要である。
老化を防ぐための情報は溢れているが、老化のメカニズムについて知る機会は少ない。そこで、ミトコンドリアとの共生に始まる生命の歴史を辿ることで、老化のメカニズムを説く『順天堂大学の老化医学に学ぶ 人はなぜ老いるのか』から、老化の原因とその対策についてご紹介します。
文/ 佐藤信紘・佐藤和貴郎
メタボリックシンドロームを予防するべき理由
食べ過ぎと運動不足によりエネルギーの供給と消費のバランスが崩れることによる肥満は、基礎疾患として代表的な病態です。余分なカロリーが血糖を上げ、肝細胞に脂肪をため込んで脂肪肝を誘発します。また脂肪細胞に脂肪が沈着して皮下や内臓脂肪の蓄積した状態(すなわち肥満体)は、高脂血症を呈するのです。
肥満に加えて、高血圧、高血糖、脂質代謝異常を併せ持つ症候群を、メタボリックシンドローム(内臓脂肪型肥満)といいます。世界共通の概念であり、我が国では2008年から特定健診(通称メタボ健診)が始まり注目されています。
血糖値が高くても、内臓脂肪がため込まれていても、痛みや不調はおそらくありません。しかし、体内では高血糖や急激な血糖値の変動が血管壁にダメージを与えています。
特に、内臓にたまった脂肪細胞からは、善玉・悪玉のアディポサイトカインという生理活性物質が分泌されます。このうち、悪玉の「TNF – α」や「PAI -1」と呼ばれる炎症性の物質が分泌されると、活性酸素が血管壁などを攻撃し、高血圧や糖尿病を発症・増悪させやすくします。
メタボリックシンドロームがなぜ注目されるのかというと、心疾患(狭心症・心筋梗塞・心不全)の引き金になるからです。心疾患は50~80代までの日本人の死因の第2位です。ちなみに、第1位はがん、第3位は老衰ですが、男性だけのデータを見ると第3位は脳血管疾患(脳出血・脳梗塞)となっていて、動脈硬化の進行が男性では早いことがわかります。
また、腎不全の患者さんの中には糖尿病性の腎症の方が圧倒的に多く、わが国では現在、30万人以上の方が透析を受けています。医療費の支出は年間一人当たりの補助が500万円で、総計1兆円を超します。
メタボの人はがんの罹患率も高いということがわかっています。メタボは、血管内膜にコレステロールなどの脂肪がたまって炎症が起き、どろどろした粥状の物質が動脈にたまった状態で、動脈硬化や粥状硬化症をきたします。これが心臓や脳血管障害を起こす一方で、細胞を老化させます。メタボでは加齢以上の速さで老化細胞が増えて、老化関連物質(SASP)を多量に産生し、周囲の細胞に悪影響を及ぼします。細胞死や細胞の遺伝子変化が起こり、老化が促進され、がん化が進むのです。
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『順天堂大学の老年医学に学ぶ 人はなぜ老いるのか』(佐藤 信紘、佐藤 和貴郎・著)
世界文化社
佐藤 信紘(さとう・のぶひろ)
学校法人順天堂理事、順天堂大学名誉教授・特任教授、順天堂大学ジェロントロジー研究センターセンター長、腸内フローラ研究講座代表、超高精細画像医療応用講座代表。(一般社団法人)日本療術学会会頭。1940年生まれ、大阪大学医学部卒業、大阪大学第一内科助教授、順天堂大学消化器内科主任教授、順天堂大学練馬病院初代院長、大阪警察病院院長、北陸先端科学技術大学院大学客員教授を歴任。
佐藤 和貴郎(さとう・わきろう)
国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部室長、順天堂大学革新的医療技術開発研究センター非常勤講師。1973年生まれ。神戸大学医学部卒業。京都大学医学博士。神経内科専門医。2009年ドイツのマックスプランク神経生物学研究所神経免疫部門に留学。2013年より現職。