歌手の加藤登紀子さんは、2022年を特別な思いで迎えている。日中国交回復、沖縄本土返還から50年という日本にとっても節目の年であり、加藤さんにとっては、初めての出産から50年、夫・藤本敏夫さんの他界から20年の年に当たる。

加藤登紀子さん。『サライ』2022年6月号(5月9日発売)で、ロング・インタビューを掲載予定です。

「『破壊と戦争の世紀』と呼ばれた20世紀が終わり、21世紀は未来に向かう力を持った新しい時代が幕を開けたと思ったのに、残念ながらウクライナではロシアからの侵攻が続いています」

加藤さん自身、ロシアとウクライナに、強い繋がりを持つ。

亡くなった父・幸四郎さんは、19歳の時にハルビン(旧満州)の日露協会学校(のちのハルビン学院)に入学し、その後、ロシア音楽にのめり込りこんだ。加藤さんが生まれたのもハルビンだ。

戦後、一家で日本に戻ってきてから、幸四郎さんは、昭和32年にロシア料理店「スンガリー」(東京・新宿)、昭和47年にウクライナの首都の名を冠した「レストラン キエフ」(京都)を開いた。今もこれらのロシア料理店は営業を続ける。

加藤さんが30年以上前から歌い続ける『百万本のバラ』。実はこの名曲もロシアとウクライナに深い関わりがある。

「この曲は、父のレストランで働いていたロシア人のニーナが、私に歌って聞かせてくれたものなんです。父が内緒で、〝登紀子に聞かせてやってくれ〟とニーナに頼んでいたことは、あとで知りました」

『百万本のバラ』は、ラトビアの作曲家が作った曲に、ロシアの詩人がグルジア(現・ジョージア)の画家の恋物語を元に詞をつけ、ロシア生まれの女性歌手が歌ってヒットした、という来歴を持つ。

「しかも、1986年に起きたチェルノブイリ原子力発電所事故後、誰も住めなくなってしまった故郷を思って、ウクライナの人々に歌われた曲でもあるんです。今、戦火で国を追われているウクライナの人々の思いにも重なります」

加藤登紀子は思いを乗せて、Bunkamuraオーチャードホールで歌う

6月18日、加藤登紀子さんはBunkamuraオーチャードホール(東京・渋谷)の舞台に立つ。「時を超えるもの ゆれうごく時代、そこに生きつづけるものがある」というサブタイトルが付けられた、「加藤登紀子エターナルコンサート2022」だ。

加藤さんはいう。

「50年前に、新しい光の中にあれと祈り願った未来の中に、今、私たちは生きているんですね。苦しいこと、やりきれないこと、許せないこと、いっぱいあります。でもどんな時代にも、変わらず生きつづけているものがあることを、深く抱きしめたい」

コンサートで必ず披露される『百万本のバラ』。この日本語の歌詞は、加藤さん自身が訳したものだ。

百万本のバラの花を

あなたにあなたにあなたにあげる

「太平洋戦争が終わると、ハルビンの郊外の建物に皆で避難したそうです。しかしそこにも、ソ連兵は来ました。身の危険もあったはずですが、母はそれを乗り切りました。あとでそのことを尋ねると、〝あなたと私で向き合えばいいのよ〟と言っていました。ソ連兵も1人の人間です。一対一で向き合い、交われば、大抵のことは解決する。それが母の教えでした。ロシア語が出来た母は、目の前のソ連兵をひとりの人間として扱い、対話したことで、何も問題が起きなかったのです。国が介在するから、ぶつかるし、おかしなことになるのね」

百万本のバラの花を贈るのも、他でもない「あなた」だ。

いろいろな思いを乗せて、悲しみも喜びも重ねて、加藤さんはBunkamuraオーチャードホールから、「あなた」に歌を届ける。

【イベント概要】
「加藤登紀子エターナルコンサート2022 時を超えるもの」
日程:2022年6月18日(土)
会場:Bunkamuraオーチャードホール
   東京都渋谷区道玄坂2-24-1
イベント詳細、チケット購入:https://www.tokiko.com/shop/products/detail.php?product_id=717
お問合せ: 03・3352・3875(トキコ・プランニング)
Tokiko World(加藤登紀子 公式サイト):https://www.tokiko.com

文/角山祥道

 

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