頼朝(演・大泉洋)、義経(演・菅田将暉)が再会。

ライターI(以下I):今週も盛りだくさんの内容になりました。善児(演・梶原善)が八重(演・新垣結衣)の夫・江間次郎(演・芹澤興人)を殺害するとはびっくりです。

編集者A(以下A):義時(演・小栗旬)と政子(演・小池栄子)が伊東祐親(演・浅野和之)の命を助けてくれるように頼朝(演・大泉洋)に嘆願します。なんだかんだいって義時や政子にとっては祖父ですからね。

I:その結果、祐親は三浦の預かりになります。祐親は、双六を楽しんだり、大真面目に竹馬を楽しむ人間だと評されていました。祐親は冷酷なだけの人ではないことをいいたかったのでしょう。

A:人の一面だけをとらえてレッテル張りをする人がいますが、「子煩悩な武闘派暴力団」とか「動物には優しいパワハラ社長」とか人間は多面性の生き物です。祐親のこのくだりは「安易にレッテル張りをしてはいけません」という戒めと受け止めました。

女性の地位が高かった中世

I:さて、今週のビックリは、なんと八重(演・新垣結衣)が〈わたしを侍女として御所においてほしい〉と懇願したことです。愛する頼朝の側にお仕えしたいという八重の切ない思いにも共感しますし、〈どこの世の中に夫の前のアレを、そうとわかって夫の側におく妻がいますか。厚かましいにもほどがあるわ〉という政子の台詞ももっともだと思いました。

A:この場面、昨年の『青天を衝け』も、見ていた方の中には「!」と感じた方もいるかもしれません。幕末明治に生きた渋沢栄一は千代という正妻とくにという妾を同居させていたのに、頼朝は? って。

I:確かに渋沢栄一は「妻妾同居」でした。

A:そのとき、渋沢栄一の正妻・千代が〈どこの世の中に夫の妾を、そうとわかって同居する妻がいますか〉と怒ったでしょうか。怒るどころか、表向きは妾のくにさんに気を遣うくらいの態度でした。

I:江戸時代から幕末明治よりも中世の方が女性の地位が高かったということですよね。頼朝のように妾を持っても「妻妾同居」などとんでもない! という時代だったということを強く印象づけられました。

A:「へ~、そうなんだ」と感じた小中学生の中から「なぜ江戸時代に男尊女卑的な風土が強まったのか」、フラットに研究してくれる人が出てきたらいいですね。

平維盛という不幸な公達

清盛(演・松平健)の嫡孫維盛(演・濱正悟)。

I:京の都では平維盛(演・濱正悟)が頼朝追討軍の大将に任ぜられました。平清盛(演・松平健)の嫡孫ですね。

A:古典『平家物語』の維盛とその嫡男の挿話は「聞くも涙、語るも涙」のシーンが続出なのですが、本作ではどこまで描かれるのでしょう。あまり尺は取れないと思いますので、維盛と六代の物語をスピンオフドラマ化してほしいです。

I:維盛は確かに不運の公達ですが、義時とは関係ないですからスピンオフは無理ですよ!

A:いずれにしてもせっかくですから、維盛の行く末には思いを馳せてほしいですね。さて、後に関白となる九条兼実は、その日記『玉葉』に維盛のことを〈容顔美麗〉と絶賛しています。いまでいうイケメンだったのでしょう。本来であれば、平家の嫡流として安泰だったはずが、父重盛が清盛より先に亡くなってしまい、その地位が不安定になりました。

I:後に大将になる清盛四男の知盛、五男の重衡などを差し置いて大将に任ぜられたのは不運でした。上総広常(演・佐藤浩市)が指摘したように「戦のことを知らない小便たれ」であることは事実でしょうからね。

A:石橋山で敗戦した頼朝が房総半島で巻き返したという情勢が清盛まできちんと伝わっていなかったのかもしれないですね。

I:頼朝が時政(演・坂東彌十郎)のことを〈わしの舅でなかったらお前なぞはとっくに放り出しておるわ〉と面罵しました。舅に対してあまりといえばあまりな仕打ち。

A:本作は、何気ないシーンまで実は伏線という印象がありますので、目を凝らしてあらゆる場面を注視していきたいですね。

富士川の場面に涙こぼるる

A:さて、「鎌倉殿の13人」は「そういう解釈できたかー」というシーンが満載でわくわくなのですが、今週の富士川合戦のシーンは、涙が出るくらい感動しました。

I:あのシーンのどこがですか?

A:富士川の戦いは、先陣を切ろうとした武田軍が抜け駆けして夜襲をかけようとした際に、驚いた水鳥が一斉に飛び立ち、その水鳥の音に驚いた平家軍が慌てて逃げだすというのが「定説」。固定観念で凝り固まっていた私は、そういうシーンを想像していたのですが、見事に打ち破られました(笑)。

I:三浦義澄(演・佐藤 B作)と時政が富士川でじゃれ合って、〈わしらの肩には大勢の坂東武者の命がかかっておる。己が何をすべきかよく考えろ〉とか〈この世でいちばんみすぼらしいのは何か知っているか。しょげているじじいだ〉とか印象的な台詞が散りばめられ、子供のようにじゃれ合う大人に驚いた水鳥が一斉に飛び立つという設定でした。

A:なんか、衝撃的で最高に面白い場面になりました。あんな大人いますか?(笑)。にわかに詰め込んだ知識では、こんな場面かけないと思います。脚本の三谷幸喜さんは、数多の史料や書かれたものすべてを飲み込み、咀嚼したうえで、さまざまな場面を紡ぎ出しているという印象ですが、歴史の骨格を外していないから、「あー、そういうふうに来ましたか!」と膝をうつ。今後もどういう解釈で展開されるのか、楽しみなシーンが山ほどあります。山ほどですよ!

I:さて、いずれにしても平家軍はほうほうの体で京都へ帰還します。この時、頼朝は追撃を主張します。ところが、坂東武士らが諫めます。

A:〈坂東武士にとって何より大事なのは所領と一族」〉という台詞が心に沁みました。坂東武士それぞれ個別の事情もあるでしょうし、何より飢饉に見舞われた年ですからね。だからこそ、頼朝の〈もうよい。とどのつまりわしはひとりということだ。流人の時も今も〉という台詞が心に響いた方も多いのではないでしょうか。

I:私はフリーランスですから「常にひとり」の矜持でいますが、組織に属せば属したで孤独を感じることもあるんでしょうね。「権力者は孤独だ」とよくいいますから。

A:坂東武士の中で孤独を感じた頼朝が拠り所とするのはやはり血をわけた兄弟ということになるのでしょう。ついに奥州から義経(演・菅田将暉)がはせ参じます。

I:『吾妻鏡』では、義経との面会にあたって、頼朝が後三年の役の際に、兄義家の苦戦を聞いてはせ参じた弟義光の故事に思いを馳せたことが記され、〈懐旧の涙を催す〉と兄弟の再会を表現しています。

A:坂東武士との間ですきま風が生じ、孤独感にさいなまされていた頼朝にとって、父を同じくする弟の参陣を心の底から喜んだと信じたいですね。その兄弟愛がやがて引き裂かれることになるのですが……。

I:今後、その理由が明かされていくことになります。なんだかハンカチ必須の回が多くなりそうですね。

ドラマでは、『平家物語』の名場面のひとつ、水鳥のシーンは、時政(演・坂東彌十郎)と義澄(演・佐藤B作)の戯れが発端。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を足掛け8年担当。初めて通しで見た大河ドラマ『草燃える』(1979年)で高じた鎌倉武士好きを「こじらせて史学科」に。以降、今日に至る。『史伝 北条義時』を担当。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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