『RE:KYOTO〜潜入ワンカメ京都リポ〜』とは
サライ京都チャンネル「RE:KYOTO(リ・キョウト)〜潜入ワンカメ京都リポ」は地元京都の放送局で15年間活動してきたフリーアナウンサーの木村寿伸(きむら・ひさのぶ)がナビゲーターを務めます。 京都ですでに活躍している人、何かに挑戦している人への取材を通して、京都の魅力を“再発見”しようというこの企画。 単独潜入風、近頃話題のブイログスタイルでお送りすることで、近しい人しか知らない取材対象者の表情や本音の部分に迫ります。
森谷さんがインストラクターを務めるスポーツ教室に潜入
25年ぶりのパ・リーグ優勝に沸いたオリックス・バファローズの活躍は記憶に新しいところですが、そのバファローズがまだ近鉄の時代、“足の速さは球界一”とも言われたある選手をご存じでしょうか。今回は京都市出身の元プロ野球選手で現在スポーツ教室のインストラクターを務める森谷昭仁(もりたに・ あきひと)さんを取り上げます。
森谷さんを訪ね、京都府向日市のスポーツ教室にやってくると、まずその忍者のような出立ちにびっくりしました。
こちらは学習塾など教育事業を展開する“やる気スイッチグループ”の子ども向けスポーツ教室「忍者ナイン」。
トップアスリートも活用するメソッドなどによる運動能力の向上や、社会で求められる社会性や思考性を身に付けることなどを目的としたプログラムです。将来的に自分がどのようなスポーツに向いているかなども知ることができるといいます。
ここで森谷さんは元アスリートの経験を活かしながら、子どもたちに基礎的な体の動かし方などを熱心に指導しています。
“赤い稲妻”の愛称で球団ファンに親しまれたプロ野球選手時代
森谷さんは京都市出身。実は筆者と同郷で地元の中学校が同じ。森谷さんは学年的には3つほど上なので重なってはいませんが、それでも地元では当時から「将来プロに行きそうなすごい選手がいる」と噂になるほどの有名人でした。
愛知県の豊川高校時代は通算34本塁打を記録。1997年のドラフト会議では当時の近鉄バファローズに3位指名で入団。球界屈指の足の速さで“赤い稲妻”と呼ばれました。
その後2005年、球団合併に伴う分配ドラフトで東北楽天ゴールデンイーグルスに入団。2008年に現役引退し、その後飲食業を経験した後、2019年からサードキャリアとして現在の指導者の道を歩んでいます。
当時“ノムさん”も認めた足の速さ
プロ野球選手時代を振り返ってもらうと、必ず出てくるのが球界一とも言われた“足の速さ”についてです。それは、強打者揃いのプロの世界でもこれなら勝負できると考えていた森谷さんにとっての大きな武器。高校時代も、陸上の400mの大会で優勝するような選手より速く、陸上部から度々誘いを受けることがあったといいます。
当時在籍していた楽天の野村克也監督からも、「お前の足なら絶対に“億”を稼げるから頑張れ」と高く評価されていました。しかしその後、レギュラーに限りなく近いところにいながらチャンスを活かせず2008年に現役引退。
周囲の期待に応えることができなかった自分の力のなさを悔やみ、“野球から遠ざかりたい”という思いが強くなっていったという森谷さん。そんな中、次に飛び込んだのは、料理人の弟と歩む“飲食業”の世界でした。
“バット”を“串”に持ちかえて臨んだ第二の人生
森谷さんが「想像以上に険しく、胃が痛くなるような、泣きたくなるぐらい大変な毎日でした」と語った、以前の職場、京都市西京区にある焼き鳥店「夢叶(ゆめか)」を訪ねると、オーナーで弟の裕之さんが当時の思い出を語ってくれました。ホテルなどで修業していた裕之さんが前職を辞めるタイミングと、兄の森谷さんが現役引退するタイミングが偶然重なったこともあって、2人でお店を持つことに。
一緒にやるならお互いが好きだった焼き鳥や串揚げの店にしようと決め、2010年にオープン。焼き鳥を楽しんでもらいながら、皆が夢を語り合える場になればという意味を込め、屋号を「夢叶」としました。
この日、裕之さんが私に焼いてくれた串は、兄との思い出が詰まっているという焼き鳥の“もも串”。
「野球界から飲食店に入るということで、ものすごく迷いはあったと思うんですけど。大変な思いをしながら2人で8年間やってきたんですけどね」
当時の苦労を思い出すかのように噛み締めながら裕之さんは語ります。
「特にこのもも串は、いつも仕込みで兄貴が串を突いてくれて。鶏肉のサイズ感で火の入れ方とかが変わってくるので、サイズを揃えないといけない。でも形を整えるのが難しく、兄貴も四苦八苦しながらやってくれていました」
仲の良い兄弟とはいえ、当時は料理人でオーナーの弟と、飲食業ではほぼビギナーの兄という関係。仕込みに妥協を許さない裕之さんの要望に森谷さんも音を上げることが度々あったそうです。
そんなお話を聞きながらいただいたももは、皮のパリッとした食感と香ばしさ、そして身がプリっと引き締まった感じで最高の一本。ももに付いている皮を一旦外して、焼き加減にムラが出来ないように形を整えてからまた付け足すなど、シンプルに見えて相当なこだわりがありました。
当時は兄弟で意見が衝突することも多々あったといいますが、裕之さんは、「お互いにまた違う道でお客さんを笑顔にできるような仕事をこれからもずっと続けていけたらなと思いますね」と兄にエールを送っていました。
第三の人生、指導者の道へ
「夢叶を離れるというのはすごく寂しい思いはありましたけど、もう一度スポーツの世界で頑張りたいなという気持ちがあったので。それに僕も子どもができて公園で遊んでいるとき、自分の子どもが全然ちゃんと動けていないなとかそういうのを感じていたときでもあったので、もっとスポーツを好きになってくれるように子どもたちを育てたいという思いで指導者の道を決断しましたね」
元々持っていたスポーツへの情熱、そして結婚、子育てによる自身の考え方の変化。それらが転機となり、現在のサードキャリアへ。
「本当に自分が野球選手やったのかなという感覚で、今では記憶にないぐらい。正直今は“先生”という感じなので。
将来的にプロの選手やオリンピックに出られる選手を輩出できるような教室を目指して頑張っていきたいと思います。もし自分と同じようにプロ野球選手になるような子が現れたら嬉しくて泣いてしまうと思いますね」
その言葉通り、もう華やかなプロ野球の世界に未練はありません。
今度は“子どもたち”と“夢の続き”を。
森谷昭仁さんの第三の人生は今始まったばかりです。
忍者ナイン 洛西口ラボ
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やきとり・串あげ 夢叶
〒615-8191 京都府京都市西京区川島有栖川町77-4
TEL 075-393-0533
テーマ音楽 尾辻優衣子(二胡奏者)
オープニング「京騒奏」
エンディング「鏡花水月」
企画制作・出演 木村寿伸(フリーアナウンサー)