成年後見人は専門家がなるケースが多数で、親族が後見人になるケースは約2割です。そう聞くと、「見ず知らずの専門家が後見人になって、きちんとサポートしてくれるのだろうか?」とご家族は不安に思われるかもしれません。今回は、ご家族が抱く疑問について、事例を挙げて解説していきます。
目次
成年後見人の役割
成年後見人になれる人
成年後見人のトラブル事例
家族・親族間トラブルを避けるために
まとめ
成年後見人の役割
成年後見人の役割は、認知症や精神障がいにより判断能力が不十分な本人に代わって、本人のために財産管理や契約などの法律行為を支援する制度のことです。
成年後見人の主な仕事は、財産管理(預貯金管理や収支の管理、不動産管理など)、身上保護(入院手続きや、施設の入退所に関する契約、介護費用の支払いなど)がありますが、どちらの仕事もあくまで本人の利益のために行います。つまり、本人にとって不利益なことや、本人の財産が本人以外の人のために使うことで減ってしまうことは、成年後見人として防がなければなりません。詳しくは後ほどご説明いたします。
成年後見人になれる人
成年後見人になるための資格は特に必要ありません。法律で定められた欠格事由に該当しなければ、誰でも成年後見人になることができます。
欠格事由は以下の通りです。
・未成年者
・ 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人または補助人
(※免ぜられたとは解任されたという意味です)
・破産者
・ 被後見人に対して訴訟をし、またはした者並びにその配偶者および直系血族
・ 行方の知れない者
法律がこれらの欠格事由を定めた理由は、本人の財産を管理し、身上監護・療養看護を行う適正な職務を行うことが期待できない者は、最初から外しておく必要があるからとされています。
では、欠格事由に当たらなければ、私たち家族でも後見人になれるのでは? と思われたでしょう。もちろん、後見人候補者に家族を挙げることは可能です。ところが、実際は、後見人の8割が専門家後見人、約2割が親族後見人というデータからもわかるように、専門家(司法書士・弁護士・社会福祉士)が選任される確率が高くなっています。よって、自分たち家族が後見人になれると思い後見人の選任申立てをしたものの、家族が後見人になれずに専門家が選ばれたというケースはよくあることです。そこで、成年後見人のトラブル事例についてご紹介いたします。
成年後見人のトラブル事例
成年後見人に関するトラブルがどのようなものがあるのか、事例を交えてご紹介します。「こんなはずでは…」とならないためにも、ぜひ参考にしてください。
生前贈与を受けられない
1つ目は、成年後見制度は本人の利益を守る制度です。ですので、本人の利益と周りの親族の利益は別であるということに注意が必要です。
例えば、相続税の負担を減らすための生前贈与は、親族にとっては利益ですが、本人の財産を無償で減らす行為にあたり、成年後見人は生前贈与をすることができません。また、子どもや孫の教育資金や生活費に本人の財産を使用することも、本人の財産を減らす行為であり、行うことができません。今まで定期的に親から生前贈与を受けていた親族は、成年後見制度を利用すると、生前贈与を受けられなくなることを覚えておきましょう。
本人口座からお金を引き出せない
2つ目は、本人が自宅で家族と同居しているようなケース。専門家が後見人になった場合、後見人が通帳を預かり財産管理をするので、これまでのように家族が本人の口座からお金を引き出せなくなります。その場合、本人のために家族が使った出費に関してはレシートを残しておき、後見人にレシートを提出することで、家族が立て替えたお金を本人口座から引き出してもらい精算します。
または、本人の日用品購入のために使う口座を1つ設定し、キャッシュカードを家族に渡してやりくりしてもらい、通帳を後見人が管理して収支を確認するという方法もあります。このように、家族であっても本人のお金を自由に引き出せなくなり、家庭裁判所や後見人の許可が必要になるので、不自由さを感じてしまうかもしれません。
配偶者の生活費
3つ目は、配偶者の方からよくご相談のある事例です。これまで本人の財産で生活していた夫婦の場合、本人の財産は本人のためにしか使えないとなると配偶者の方は生活できなくなるではないかというものです。しかし、安心してください。民法877条は、一定範囲の親族に対し、扶養義務を定めています。配偶者の方は、自分の財産のみで生活しなければならないわけではなく、本人の口座から一定額を生活費として後見人から引き出してもらい、生活することができます。
後見人の交代は至難の業
4つ目は、選任された専門家後見人を交代できないのかというものです。知らない専門家が後見人になり、相談しづらい、あるいは後見人の行う事務に不満がある等の理由で、親族等から家庭裁判所に対して後見人の解任申立てがなされることがあります。しかし、一度選任された後見人を交代することは、至難の業です。解任の申立てをしても、横領や背任行為、本人に対して後見業務を行わないなど、解任事由に相当するものがなければ申立ては却下される可能性が高いのです。単に後見人が気に入らないという理由だけでは認められません。
家族・親族間トラブルを避けるために
どうしても家族が後見人になりたいという場合、それを叶える方法はないのでしょうか? その方法は、2つあります。
家族が後見人になる方法
1つ目は、本人に判断能力が十分なうちに、将来判断能力が衰えたときに備えて、後見人になってほしい家族と任意後見契約を結んでおく方法です。任意後見契約により、本人が選んだ後見人に、本人の望む支援をしてもらうことが可能です。
2つ目は、後見制度支援信託を利用して、専門家から親族へ後見人の職務を引き継ぐという方法です。後見制度支援信託制度を利用すると、専門家後見人から業務を引き継いだ親族成年後見人が、預かり管理する預金口座に生活費や施設利用料等に足りるだけの資金を残し、他の金融資産は信託財産とします。
日常的に使用しない金融資産は信託銀行に預け、それ以外の資産管理を成年後見人が行い、本人の生活を支援します。しかし、後見制度支援信託を利用するには、家庭裁判所の許可が必要などの要件もあり、全ての場合に使えるわけではありません。
まとめ
いかがでしたでしたか? 後見人に選んでもらえなかったり、本人のお金を引き出せなかったり、家族にとってはこんなはずじゃなかった…ということもあったかもしれません。後見制度は、周りの親族のためではなく、あくまで本人の利益を守るためのものだという制度の目的をご理解いただくと、制度の仕組みも納得してもらえるのではないでしょうか。今回の解説をご覧いただくことで、制度への理解を深めてもらう第一歩となりましたら幸いです。
●構成・編集/内藤知夏(京都メディアライン・https://kyotomedialine.com)
●取材協力/坂西 涼(さかにし りょう)
司法書士法人おおさか法務事務所 後見信託センター長/司法書士
東京・大阪を中心に、シニア向けに成年後見や家族信託、遺言などの法務を軸とした財産管理業務専門チームを結成するリーガルファームの、成年後見部門の役員司法書士。
「法人で後見人を務める」という長期に安定したサポートの提唱を草分け的存在としてスタート、
全国でも類をみない延べ450名以上の認知症関連のサポート実績がある。認知症の方々のリアルな生活と、多業種連携による社会的支援のニーズを、様々な機会で発信している。日経相続・事業承継セミナー、介護医療業界向けの研修会など、講師も多く担当。
司法書士法人おおさか法務事務所(http://olao.jp)