文/小林弘幸
「人生100年時代」に向け、ビジネスパーソンの健康への関心が急速に高まっています。しかし、医療や健康に関する情報は玉石混淆。例えば、朝食を食べる、食べない。炭水化物を抜く、抜かない。まったく正反対の行動にもかかわらず、どちらも医者たちが正解を主張し合っています。なかなか医者に相談できない多忙な人は、どうしたらいいのでしょうか? 働き盛りのビジネスパーソンから寄せられた相談に対する「小林式処方箋」は、誰もが簡単に実行できるものばかり。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説します。
長いデスクワーク後のストレス解消は、
A.ランニングで一気に
B.ウォーキングで徐々に
夜の運動は朝より故障リスクが少ない
終業時刻がきたと同時に、思わず「ああ疲れた」と声に出してしまったことはありませんか? いいんです、実際疲れているんですから。
営業などで外を飛び回っているという人は別ですが、多くのビジネスパーソンは、椅子に座りっぱなしのことが多いと思います。実は、こうしたデスクワークが、疲労感をさらに増してしまいます。
なぜなら、デスクワークで長時間座っていると、筋肉が硬直し、うっ血してしまうからです。簡単に言うと、血流が悪くなっているのです。このことが、疲労感を感じる大きな原因となっています。では、どのようにうっ血状態を解消するべきか?
それは軽い運動をすることです。疲れたところにさらに運動? と思われるかもしれませんが、適度な運動は血流を良くしてくれるので、かえって疲労がとれることが医学的にも証明されています。しかし余計な手間や時間はかけたくないですよね?
とはいえ、息が荒くなるような激しい運動は逆効果です。「ランニング」なんてもってのほか。交感神経を刺激してしまいますので、興奮してなかなか寝付けず、かえって疲労が蓄積する、ということにもなりかねません。
というわけで、私は適度なウォーキングをお勧めしています。20〜30分間、ゆっくりマイペースで歩くだけで構いません。都心などに電車通勤している方なら、帰りにひと駅分くらい歩くことをお勧めします。これは私もよくやる方法です。いつもの駅のひとつ手前で降りて、家まで歩く。これならばジムに通うなどの手間も費用もかかりません。
外の空気を吸ってリラックスもできますし、簡単で無料なのですから、やらない手はありません。さらに夜の適度な運動は全身の末梢血管の血流を良くしますので、これによって、首の痛みや肩こりの解消などにも効果があることがわかってきました。特に、肩こりには劇的と言っていいほどの効果が確認できています。
軽い運動が体に良いとわかっていても、仕事終わりのタイミングで運動することに、まだ抵抗を感じる人もいるでしょう。「出勤時、朝じゃダメなの?」という質問もよく受けます。もちろん朝のウォーキングも気持ちのいいものです。しかし、朝の時間帯は、頭が冴え渡る「ゴールデンタイム」。私に言わせれば、そんな大事な時間帯を、体を動かすことだけに使うなんてもったいない。
また、朝はどうしても筋肉が固まっているので、急な運動は怪我をしやすいのです。実際、大学の体育会では、朝練が怪我に繋がりやすいことがわかってきたこともあり、最近は朝練を避ける傾向にあります。
夜ならば、朝のような怪我のリスクがありません。1日を終え、気分的な余裕もあることでしょう。疲れた時ほど、夜ゆっくり歩く。これで疲労ともおさらばです。
答え B.ウォーキングで徐々に
長時間のデスクワークによって筋肉は硬直し、うっ血してしまう。血流を良くすることが、疲労をとる近道。会社帰りにひと駅分の距離を歩くなど、軽い運動をすると、血流が良くなり、疲労感が解消される。ただし、ランニングなど激しい運動は逆効果なので注意したい。
『不摂生でも病気にならない人の習慣』
小林弘幸 著
小学館
文/小林弘幸
順天堂大学医学部教授。スポーツ庁参与。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。また、日本で初めて便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」でもある。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説した『不摂生でも病気にならない人の習慣』(小学館)が好評発売中。