旧長州藩主である毛利家。その家に代々伝わる文化財のうち、国宝全4点と選りすぐりの逸品約30点を公開する特別展が、山口県防府市の毛利博物館で開催されています(~12月4日まで)。
何を置いても注目なのが、雪舟の描いた国宝「四季山水図(山水長巻)」です。
雪舟は京都五山の相国寺に出家し、禅僧として絵の修業を積みながら、30歳代のなかば頃、山口に下ります。ここで田舎画僧として終わってしまったら、雪舟の名は美術史上に残らなかったかもしれませんが、40代後半で運命を変える出来事が起こります。当時山口を支配していた大内氏の協力で、中国に留学するチャンスを得たのです。
江戸時代以前、水墨画の本場、中国で絵を学ぶことができた画家はほとんどいません。おそらく、大変な箔がついたことでしょう。
名声が高まり大家となった雪舟が、67歳のときに描いたのが「四季山水図(山水長巻)」です。通常の巻物よりも広い約40cmの幅で、中国の山河、季節の移ろいが16メートルにわたって展開します。
水墨画といっても、墨一色ではなく、要所要所に藍や朱などの色がさされます。図版ではなかなか伝わらない美しさです。大内氏を滅ぼした毛利家の所有となり、現代まで大切に伝えられてきました。
毛利博物館館長代理の柴原直樹さんは、次のように展覧会の魅力を説明します。
「当館以外で開催された特別展などで、既に『四季山水図』をご覧になったことがあるかたも、雪舟が実際にこの画巻を描いた山口の地で見ると、また違って見えるかもしれません。
また、当館は、大正時代に建てられた重要文化財の旧毛利家本邸の一部を改装した博物館で、毛利氏庭園も散策していただけます。旧大名家の生活空間とあわせて『四季山水図』を鑑賞できるのは、当館の「特別展 国宝」のみです」。
柴原さんの、もう一つのお勧めが、頼山陽(らいざんよう)という江戸時代後期の儒学者・漢詩人・書家が描いた「山水図」です。
文人画(中国の教養ある知識人が趣味として描いた絵)を意識した三幅対。京都で暮らしていた頼山陽は、同じく京都で暮らしていた萩藩主毛利斉房(もうりなりふさ)の奥方、貞操院(ていそういん)のために、この絵を描きました。
「展覧会には、この絵を貞操院に献上する時に添えた、菊の押し花なども展示します」(柴原さん)。
そろそろ、ふぐが美味しくなる季節。雪舟をはじめとする毛利家の家宝(と美味しいふぐ料理)を目当てに、山口へ旅に出るのはいかがでしょうか。
【特別展 国宝】
■会期/2016年10月29日(土)~12月4日(日)
■会場/毛利博物館
■住所/山口県防府市多々良1-15-1
■電話番号/0835・22・0001
■料金/大人1000円(900円) 小中学生500円(450円)
*( )内は20名以上の団体料金
*障がい者手帳を券売所にてご呈示の方は、上記料金の半額で入場できます。
福祉施設ご利用者は、施設主催の団体として入場される場合、上記料金の半額で入場できます。
開館時間/9時から17時(入館は16時30分まで)
■休館日/なし
■アクセス/JR防府駅天神口(北口)2番のりばから「防長バス」阿弥陀寺行き、毛利本邸入口バス停下車、徒歩約6分
取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』