文/小林弘幸
「人生100年時代」に向け、ビジネスパーソンの健康への関心が急速に高まっています。しかし、医療や健康に関する情報は玉石混淆。例えば、朝食を食べる、食べない。炭水化物を抜く、抜かない。まったく正反対の行動にもかかわらず、どちらも医者たちが正解を主張し合っています。なかなか医者に相談できない多忙な人は、どうしたらいいのでしょうか? 働き盛りのビジネスパーソンから寄せられた相談に対する「小林式処方箋」は、誰もが簡単に実行できるものばかり。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説します。
【小林式処方箋】温めのお湯から浴び、シャワー後はすぐに就寝する。
熱いお湯は眠りを妨げる
時間がない日にシャワーだけで済ます場合、熱いお湯を浴びるのは禁物です。
なぜなら熱いお湯は、「深部体温」を急上昇させてしまうことがわかっているからです。体の表面の温度を「皮膚温」、脳や内臓などの体の内部の温度を「深部体温(直腸温)」といいますが、「深部体温」が低いほうが良い眠りが得られることがわかってきました。深部体温が急に上がると、血液がドロドロになってしまい、交感神経も活発になります。リラックスするどころか、興奮状態になってしまうのです。
ですから、シャワーだけで済ます場合は、ぬるめのお湯で体を慣らしていきながら、徐々に温度を上げていきます。この際、いきなり頭や上半身からお湯をかけず、足先から徐々に上半身に移っていくのがいいでしょう。シャワーは、刺激によって交感神経を高めてしまいますので、くれぐれも熱いお湯は厳禁です。
またシャワーの場合は、湯船に浸かるのと異なり、湯冷めが早くなります。シャワーを終えたらすぐにあたたかい服を着て、早めに就寝するようにしてください。
とはいえ、入浴は、自律神経を整えるのに効果的な方法でもあります。時間がある日は面倒なようでも、意識的に湯船に浸かってください。
入浴する最大の目的は、身体を清潔に保つことではありません。1日の終わりに滞った血流をリカバリーすることにあります。ただしこの時、熱いお湯に浸かって「深部体温」を上げすぎてしまうとかえってマイナスです。お風呂への入り方も重要になっていきます。
小林式おすすめの入浴法
私がおすすめするのは、次の方法です。
1.手足など、心臓から遠い部分にかけ湯する
2.39〜40度のぬるめのお湯に約3〜5分、首まで浸かる
3.次に、みぞおちまでの半身浴を約10分
4.風呂から出たら、水分を補うため、コップ1杯の水を飲む
この方法ですと、体の深部体温がゆっくり上がり、副交感神経が優位になります。血流もリカバリーされます。
体をあたためると、末梢血管が広がり、手足の表面からの熱放散が増え、体の内部の温度が低下しやすくなります。手足から外界に熱が逃げていくことで体の内部の温度も下がり、これに続いて脳の温度も下がるのです。するとオーバーヒート気味だった脳が休まり、自然と深い睡眠に誘われるのです。
体をあたためすぎると、深部体温が上がりすぎ、逆に交感神経を刺激してしまいますので、「ぬるめのお湯」で「ゆっくりあたためる」というのが、コツです。また熱すぎるお湯は、血液をドロドロにします。脱水状態にもなりますので、「高齢者がお風呂で脳梗塞になる」という事態が頻発してしまうのです。
お風呂から出たら、1時間以内にベッドに入ってください。くれぐれも、テレビやパソコン、スマホなどの強い光の刺激を受けないように。せっかくの「良い睡眠のリズム」が狂ってしまいます。
十分な休息を得るためにも、睡眠や入浴の正しい方法をぜひ身につけてください。
『不摂生でも病気にならない人の習慣』
小林弘幸 著
小学館
定価 924 円(本体840 円 + 税)
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文/小林弘幸
順天堂大学医学部教授。スポーツ庁参与。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。また、日本で初めて便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」でもある。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説した『不摂生でも病気にならない人の習慣』(小学館)が好評発売中。