新型コロナウイルス感染症など、さまざまな病気に負けないための「免疫力」は、日々の食事や生活習慣の改善によって、大幅に高めることができるそうです。しかし、巷に溢れる健康や免疫力に関する知識は刻一刻とアップデートされ、間違った情報や古びてしまったものも少なくありません。コロナ禍の今、本当に現代人が知っておくべき知識とは何でしょうか。著書『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ究極の「健康資産」の作り方』が話題の満尾正医師が解説します。
酸化、糖化、ホルモン変化に注意!
新型コロナは、あっという間に悪化して命を落とす患者さんがいる一方で、感染してもなんの症状も出ない人たちが、かなりの割合で存在することがわかっています。
自覚症状のない「不顕性」の人や、症状の軽い患者さんは圧倒的に若い世代に多く、高齢者ほど重症化しやすいことも新型コロナの大きな特徴です。
もっとも、新型コロナに限らず、どんな病気であっても高齢者は重症化しやすいリスクがあります。
では、人はいつから老化するのでしょう。
すでに20代から徐々に老化は始まり、日々を過ごすなかでそれを加速させます。もちろん、過ごし方次第で、老化の加速度合いはまったく違ってきます。
同じ60歳でも、40代に見える人もいれば、すっかり衰えて高齢者然としている人もいるでしょう。
老化には加齢などによる「止められない老化」と、食事や生活習慣の見直しによって「防ぐことができる(止められる)老化」があります。止められる老化を加速させてしまう原因には、大きく次の3つが挙げられます。
(1)活性酸素による「酸化」
(2)タンパク質の「糖化」
(3)「ホルモン分泌」の変化
「酸化」とは、いわば体が錆びること。
屋外に放置された自転車は、錆びるのが早いでしょう。あれは、鉄が大気中の酸素や水分と、どんどん結びついてしまうからです。錆びると、頑丈だったはずの鉄の部品もボロボロと崩れやすくなりますし、ギシギシと動きにくくなります。
それと同じことが体でも起きます。
乱れた食生活やストレスによって、私たちの体内では「活性酸素」という、電子が1つ欠けた不安定な酸素分子が発生します。そして、不安定な自らを安定させるために、活性酸素はほかの細胞から電子を引き抜きます。
それによって、電子を引き抜かれた細胞は傷つき、さまざまな老化現象を起こします。これが、体の錆です。
活性酸素は次の5つの習慣によって大量発生します。
(1)喫煙
(2)お酒の飲み過ぎ
(3)激しい運動
(4)食べ過ぎ
(5)ストレス
タバコや暴飲暴食、ストレスが体によくないということは、多くの人が知っているはずです。加えて運動を頑張り過ぎるのも逆効果なのです。
活性酸素は、ファイトケミカルなどの抗酸化物質を積極的に摂ることで、消去していくことができます。
一方、「糖化」とは、体が「焦げること」とも表現されています。こちらは、細胞内のタンパク質が糖と結びつくことで起きます。
タンパク質は立体的な三次元構造をしており、さまざまに動くことができます。ところが、間に糖が入るとくっつきあって自由に動けなくなり、タンパク質の大切な働きが止まってしまいます。それによって、代謝も悪くなり細胞自体の機能も低下します。
このような、タンパク質が糖と結びついて起きる変性部位では、繰り返し述べてきた「AGEs」という老化物質がたくさん産出されます。
たとえば、皮膚のシミも糖化によって起きた一種の「焦げ」ですが、そこにはAGEsが溜まっているのです。
ここで忘れてはならないのは、私たちの体では、さまざまな酵素が働き体の調子を整えていますが、酵素をつくっている重要な成分はタンパク質だということです。
【 知らずに食べている怖いもの 3 (https://serai.jp/health/1029821)】で、糖質の摂り過ぎに警鐘を鳴らしてきたのは、糖を摂ればそれだけAGEsをつくるリスクが高くなり、全身の老化が進みやすくなるからです。
糖化を防ぐためには、少なくとも次の2つのことを心がけてください。
(1)糖質の多い食材を控えめにする
お菓子やジュースといった甘いものはもちろん、穀類、いも類などを食べ過ぎないようにしてください。
(2) ゆっくり時間をかけて食べる
早食いは血糖値を急上昇させ糖化を進めます。また、満腹中枢へのサインが届きにくく食べ過ぎてしまう結果となります。1回の食事には最低でも20分はかけてください。
いずれにしても、酸化と糖化は老化を進める“両横綱”と言えます。
とはいえ、私たちは生きていくために酸素を必要とし、また、エネルギーを得るために糖質は欠かせません。つまり、生きていることそのものが、老化を進めてしまうのです。
だからこそ、意識するとしないでは、その人の老化のスピードがまったく違ってくるわけです。
ホルモン分泌の変化による老化
DHEAというホルモンおよび、そこから産生される男性ホルモンの重要性については、【世界最新の医療データが示す最強の食事術】7(https://serai.jp/health/1011462)でもふれました。
そこでは、男性ホルモンの年代や時間帯による違いを紹介し、いかに働き盛りの世代の男性ホルモンが危機的状況にあるかをお伝えしました。
ここでは、マザーホルモンであるDHEAの年齢別分泌量を見ていきましょう。
DHEAは男女ともに20歳の頃がピーク。そして、加齢とともに減少していきます。
ただ、その減り方には男女差があり、女性は年齢を重ねるごとに減少していく感じです。
一方、男性は30代半ばからガクンと減ります(下図参照)。
その最大の原因はストレスです。
強いストレスがかかると、それに対応するためにストレスホルモンが大量につくられますが、その材料はコレステロールです。DHEAも同様にコレステロールからつくられるので、材料不足になってしまうわけです。
DHEAの血中濃度が下がると、次の3つの体調変化も出てきます。
(1)筋肉量や筋力が低下する
(2)免疫力が低下する
(3)意欲が低下する
どれも、働き盛りの年代にとって致命的。休養や睡眠をたっぷりとり、ストレスを減らすことはとても重要です。また、第4章でもふれたように、自然薯などを積極的に食べるのもいいでしょう。なお、一口に「ホルモン」といっても多種多様で、私たちの体はいろいろなホルモンが複雑に働き合うことで健康や免疫力を維持しています。
たとえば、血糖値を下げるために分泌されるインスリンもホルモンの一種です。
一方で、緊張状態に置かれると分泌されるコルチゾールというホルモンには血糖値を上げる働きがあります。
コルチゾールは、外敵から生命を守るために不可欠なホルモンですが、過剰に分泌されるとDHEAの分泌を抑制してしまいます。
また、若さを保つには、hGH(ヒト成長ホルモン)が必要で、このホルモンは大人になっても分泌されます。hGHは睡眠と深く関わっており、ぐっすり眠っている夜間に、そのほとんどが分泌されます。さらに、睡眠の質を上げるためにはメラトニンというホルモンの働きが必須です。
ここに挙げたのは一例に過ぎず、このように、さまざまなホルモンが関与し合いながら適切な働きをしています。しかし、ストレスの多い現代人は、ホルモン分泌のバランスが崩れ、体調が整わなくなっているのです。
満尾正(みつお・ただし)/米国先端医療学会理事、医学博士。1957年横浜生まれ。北海道大学医学部卒業後、内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療の現場などに従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、日本で初めてのアンチエイジング専門病院「満尾クリニック」を開設。米国アンチエイジング学会(A4M)認定医(日本人初)、米国先端医療学会(ACAM)キレーション治療認定医の資格を併せ持つ、唯一の日本人医師。著書に『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ「究極の健康資産」の作り方』(小学館)など。