信長が討たれた。その亡骸は見つからなかった。「麒麟」とはいったい何だったのか?
【前編はこちら】
* * *
ライターI(以下I):光秀(演・長谷川博己)が亀山城を出発して本能寺を目指します。
編集者A(以下A):明智勢が本能寺門前に到着した場面はひときわ感慨深いものがありました。第5話「伊平次を探せ」の回で若き光秀が訪れていた場所です。
I:この門前で将軍義輝(演・向井理)や細川藤孝(演・眞島秀和)などと初めて会ったんですよね。本能寺から34年前のエピソードでした。
A:あの頃は築地塀が崩れているなど、疲弊する京都をあらわしていましたが、光秀が取り囲んだ本能寺は周辺は見違えるようにきれいになっていました。
I:これも上洛した信長(演・染谷将太)のおかげなんですが、何がどう絡まってこんな事態になったのか本当に謎ですよね。ところで、光秀が攻めてきたと知った信長の姿が悲しすぎました。〈上様、軍勢がここを囲んでおりまする〉〈いずこの軍勢ぞ〉〈水色桔梗の旗印が見えます。明智殿の軍勢かと〉――。
A:光秀謀反を知った信長の表情が印象的でした。〈十兵衛、そなたが、そうか、ハハハ。十兵衛か〉――。〈であれば、是非もなし〉。オーソドックスな展開でしたが、なんだか身に染みる場面でした。
I:〈わしを変えたのは戦か。違う。乱れた世を変え大きな世を作れとわしの背中を押したのは誰じゃ?そなたであろう〉――信長が光秀にいった台詞が胸に響きました。前週に帰蝶(演・川口春奈)が〈今の信長さまを作ったのは父上であり、そなたなのじゃ〉と光秀に語っていた台詞に対応します。
A:信長は、誰かに褒めてもらいたい承認欲求の強いキャラとして描かれてきました。褒められたいから戦に明け暮れる。しかし、どんどん織田家が大きくなり、天下統一が近づく過程で、気性が荒くなっていく。そのことは本人がいちばんわかっていたのではないでしょうか……。あくまで劇中の話ですが。
I:そういえば、本能寺で明智軍と戦う中で、信長が吹っ切れたような、ほっとしたような、無邪気な若いころの表情に戻っていたような感じがしたのですけど・・・・・・。
A:いや、そこが気になりましたか。あくまで劇中での話ですが、信長は光秀に〈夜もゆっくり眠りたい。長く眠ってみたい〉という話をしていました。もしかしたら信長自らが、〈光秀よ、わしを討ってゆっくり眠らせてくれ〉という意味でいったのではないかと一瞬思ってしまいました。
I:制作陣がアナウンスしていた「あっと驚く結末」というのが、本能寺の変信長要請説というのですか? でも、そんな風に思えるほど、信長は達観していたような気がします。
〈わしの首は誰にも渡すな〉
A:ひとしきり戦った後、信長は奥に引き下がり〈わしはここで死ぬ。蘭丸、ここに火をつけよ。わしの首は誰にも渡すな。わしを焼き尽くせ〉と森蘭丸(演・板垣瑞生)に命じます。
結果的にこの信長の〈策〉が後に光秀を窮地に陥れます。
I:光秀にとって失策だったのは、信長の首を確保できなかったことですよね。
A:そうですよね。秀吉は、京に戻る道々で「信長健在」をアピールしていたと言いますから、信長の首を晒すことができなかったのは、光秀痛恨のミスでしたね。
I:本能寺から立ち上がる炎が、「光秀窮地」の象徴だったということですね。信長の死に顔もなんだか穏やかな印象でした。
A:それにしても信長の殺陣も見どころがありました。私たちは昨年1月に長良川合戦のロケを見学させてもらいましたが、斎藤高政役の伊藤英明さんが熱心に殺陣の稽古をしていたことが印象に残っています。おそらく染谷将太さんもかなり稽古をされたんだろうなと想像します。
I:染谷さんは『江 姫たちの戦国』(2011年)では森坊丸、2013年の映画『清須会議』では森蘭丸を演じての信長役でした。当初は不安視する声も散見されましたが、見事に演じ切りました。また近いうちに大河に戻ってきてほしいですね。
【細川藤孝の世渡り術。次ページに続きます】