久方ぶりの本格戦国大河ドラマ『麒麟がくる』。主人公は明智光秀だが、ドラマのヒロインは、光秀のいとこで織田信長の正妻になる帰蝶(濃姫)と思いきや、そうではない。
実は、門脇麦が演じる戦災孤児・駒がヒロインなのである。
多くの合戦が繰り広げられた戦国時代は、庶民にとっては、日本の歴史の中でもっとも過酷な時代だった。『麒麟がくる』で描かれる戦災孤児・駒の動向は、一見勇壮な時代だと勘違いされる戦国時代の現実を照射する。
戦国時代はどれほど過酷な時代だったのか? 『信長全史』(小学館)に所収されている〈日本史上もっとも不幸だった戦国時代〉を再録する。
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戦国期の民衆は、合戦が起こると寺社や山林などに一時避難したが、より安全を求めて領主の城郭に避難することもあったという。
城郭避難の過程を見よう。まず民衆は、家財を土に埋める。戦禍から財産を守るためだ。そして、家族を連れて城に向かうが、城内で食料が支給される保証はなかったので、食料は持参だったという。
こうして多くの人間が城内に集まると、食糧不足と不衛生な環境が生まれやすく、疫病が蔓延する危険がある。疫病対策として、衛生面では、とくに糞尿処理に注意が払われた。北条家の浜居場城では「人馬の糞尿は毎日城外へ出し、遠矢で届く範囲に捨ててはならない」という城掟もあったほどだ。
もし、敵が城まで攻めてくると、民衆も武器を手に戦った。後述するように、合戦では人さらいなどの略奪がつきものだったので、民衆も必死で抵抗したのだった。
●敗者の領民を「乱取り」で奪うのは権利だった!?
どうやら、戦国時代の合戦は、一騎討ちや、兵法を駆使した集団戦など、華々しい戦闘が主流ではなかったようだ。その大半は、相手国に侵入して、収穫時の稲を刈り取り、民家の家財や人間を奪う集団的な略奪行為だった。
戦争の慣行として行われた略奪行為は「苅田」や「乱取り」と呼ばれた。寺社内など、場所や状況よっては領主が略奪を禁じたケースもあるが、当時の感覚からすると、乱取りなどの略奪行為は兵士の当然の権利であり、雑兵たちにとっては給料そのものだった。
雑兵には、次男、三男以下が多い。当時の家族制度では家を継げなかった彼らにとって、戦場は財をなす稼ぎ場であり、食いつなぐための場でもあった。積極的に戦場に赴く者も多かったという。
●領民も覚悟していた!? 合戦後の人身売買市場
戦勝国の兵士たちは、乱取りで生け捕った人間を自国に持ち帰ると、人身売買の市場で売り払うことも珍しくなかった。
一方、売られた人間は、彼らの親類が買い取ることもしばしば。つまり、身代金を払って、誘拐された家族を取り返したのだった。
人身売買市場が成立する以上、とくに雑兵たちからすれば、戦場では命を賭けて戦うよりも、略奪に集中したほうが得だ。また、敵を殺すよりも、生け捕りにして売り払ったほうが財産になる。
当時の合戦の実態が集団略奪だったのもうなずける。この種の合戦の目的は、大名から雑兵まで同じだった。ただ敵を殺すのではなく、自らが豊かになることだ。
【発掘された頭骨の写真が掲載されています。次ページに続きます】