近代日本の創成期、渋沢栄一や岩崎弥太郎と並ぶ実業界の大物として活躍した村井吉兵衛(1864-1926)。吉兵衛は、たばこが専売制になる1904(明治37)年以前に、国内最大手だったたばこ業者です。
京都のたばこ商の家に生まれた吉兵衛は、アメリカの技術を学んでシガレット(紙巻たばこ)の製造に乗り出します。葉たばこ産地のアメリカで勢力を持っていたアメリカン・タバコ社と資本提携を結び、内国勧業博覧会で有功一等賞を獲得しました。また、斬新で大胆な宣伝手法は一世を風靡しました。
たばこ業から撤退したあとは、銀行業、鉱業、農場経営など手広い経営で、当時の産業界に大きな影響を与えました。
今日では隠れた偉人として再評価されている村井吉兵衛の業績を紹介する展覧会が開かれています。(2021年1月24日まで)
本展では、当時のたばこパッケージや看板、ポスターなどの多彩な資料から明治のたばこ産業について紹介するとともに、文書や写真などから実業家、村井吉兵衛の人物と業績を辿ります。
本展の見どころを、たばこと塩の博物館の学芸員、青木然さんにうかがいました。
「村井吉兵衛は行動の人でした。アメリカへ渡り、シガレットの製造技術を学んだり、葉たばこの買付けを行ったりした成果が、ヒット商品『ヒーロー』に結実しました。また、アメリカの印刷会社と提携し、最新鋭の機械を備えた印刷会社を設立して、アメリカ人技師の指導でたばこパッケージやポスター印刷も行いました。本展では、そうした美しいパッケージやポスターの数々を見ることができます。
たばこ業から撤退した後も、その行動力は衰えることを知らず、次々と新規事業に挑戦します。一方で、豪華な邸宅を構えて外賓を接待したり、大学や寺院を支援したりと、社交にも力を入れました。実業家は国家や社会に貢献すべきだというポリシーで、渋沢栄一と共鳴するところもあったようです。本展では、邸宅の写真や政財界の要人からの書簡とともに、吉兵衛のこうした社交の足跡を紹介しており、明治大正の実業界の華やかな側面もお楽しみいただけるかと思います」
エネルギッシュな明治実業界の息吹きを感じる展覧会です。ぜひ会場に足をお運びください。
【開催要項】
明治のたばこ王 村井吉兵衛
会期:開催中~2021年1月24日(日)
会場:たばこと塩の博物館
住所:東京都墨田区横川1-16-3(東京スカイツリー駅から徒歩8分)
電話:03・3622・8801
https://www.tabashio.jp
開館時間:11時から17時まで(入館は16時30分まで)
休館日:月曜日(ただし11月23日、1月11日は開館)、11月24日(火)、年末年始(12月28日~1月4日)、1月12日(火)
料金:HP参照
アクセス:HP参照
取材・文/池田充枝