ついに織田信長と足利義昭が上洛へ向けて動き出し、怒涛の展開を見せる後半戦の『麒麟がくる』。〈戦のない世にするために戦わなければならない〉――。光秀の思いは成就するのか?
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ライターI(以下I):いよいよ足利義昭(演・滝藤賢一)が美濃・立政寺にやってきましたね。
編集者A(以下A):立政寺は岐阜城下に現在もある浄土宗のお寺です。『麒麟がくる』ゆかりの旅で岐阜城を訪れたら、ぜひ立ち寄っていただきたいです。
I:織田信長(演・染谷将太)が後に京都で常宿にしていた妙覚寺、本能寺ともに日蓮宗ですが、こちらは浄土宗なんですね。義昭はこの立政寺で信長と初めて対面したわけですが、大和の覚慶時代と比較しても表情がより武士らしくなってきました。
A:本当ですよね。自信が芽生えたかのような表情でした。しかし心は僧侶のまま。信長は〈公方様への忠義の証〉として甲冑や刀剣などのほかに銭1000貫を進上していました。〈これだけあれば、貧しい人々1万人が一カ月暮らせる〉という義昭の台詞がありました。これから供に上洛しようという時に、同床異夢であることを印象づけました。
I: 〈まるでわかっておられん〉と嘆く信長に対して、光秀(演・長谷川博己)が、〈29歳になるまで僧侶だったんだから、武士としては体も心も動かない〉というようなことを言って擁護していました。
A:私は、光秀の甘さが出ている発言だと思いました。同じように僧侶からくじ引きで将軍になった第6代義教は、将軍らしさを求めて強権をふるいました。第8代義政の弟・義視も僧侶から還俗して将軍後継者になりましたが、義政に実子(義尚)が生まれて後継者から外されたあとに担がれて、応仁の乱のきっかけになりました。
I:義教からみたら義昭は玄孫(孫の孫)にあたります。僧侶になっていたとはいえ、実家は将軍家なわけですから、還俗したら武士の棟梁らしく振舞うはずだということですね。
A:はい。今はまだ平和を望み、貧しい人々に思いを寄せていますが、この先どうなるかわかりません。でも権力を握れば人が変わっていくはずです。人間の性(さが)を印象づける形になるのではないでしょうか。
I:その光秀ですが、信長から仕官を求められて、またも断って将軍の側にいたい旨を表明しました。
A:私はこの場面を見て、義昭がキーマンとして最終盤まで登場すると確信しました。それが当たることを願います。
信長の無茶ぶりをさり気なくアピール
I:その後、信長は、朝廷が三好たちをどう思っているのか探らせるために光秀を京に派遣します。すでに〈猿面でおしゃべりな〉 藤吉郎(演・佐々木蔵之介) が先遣しているとのことでしたが、なんと藤吉郎は、魚売りに変装していました。
A:〈若狭から届いたばかりの鯖だよ~〉と鯖をさばいていました。若狭の鯖といえば、俗に〈鯖街道〉といわれる若狭街道で京都に運ばれてきます。その若狭街道は、金ヶ崎の退き口で信長が退却した道でもあります。
I:光秀と藤吉郎が殿(しんがり)を務めた合戦ですね。
A:そうです。今回その若狭の鯖を売っているということは、すでに若狭・越前国境にまで藤吉郎の手が届いているということを示唆しているとみました。
I:この街道沿いには、熊川宿や国吉城などキーポイントがあります。
A:熊川宿や国吉城にはつい先日取材に行ったばかりです。〈難攻不落〉を掲げる国吉城や史実では越前攻めの際に光秀が先遣隊として訪ねたという熊川宿など、興味深いエピソードが満載でした。個人的には、一乗谷→金ヶ崎城(敦賀市)→国吉城(美浜町)→熊川宿(若狭町)を巡るルートはお勧めですね。
I:秀吉がさばいていた若狭の鯖はもちろん11月6日以降は、第18話で市場に出ていた当時は大蟹と呼ばれた越前蟹も楽しめます。しかし、前半戦に再三指摘しましたが、『麒麟がくる』では食べ物が効果的に使われています。第4話には光秀が織田家の人質になっていた松平竹千代(後の徳川家康)が美濃名産の干し柿を与える場面は今も焼き付いていますから。美濃の干し柿は、今後も登場するかもしれません。
A:ところで、今回面白かったのは、光秀と藤吉郎のやり取りの場面です。〈目に見えぬ敵ほど怖いものはない〉というどこまでも真面目な光秀に対して藤吉郎は〈城を三月で造れ〉とか〈敵の大将を味方に引き入れよ〉など信長に無茶ぶりされたことをアピールしていました。
I:本当は信長の無茶ぶりに対応する藤吉郎の場面も描いて欲しかったですけどね。光秀が主人公ですからしょうがないですね。
A:さて、京では、光秀と藤吉郎が駒(演・門脇麦)と再会しました。
I:戦のない世を望む駒に対して光秀は、〈戦のない世にするために戦をしなければならない〉というような話をしていました。戦災孤児だった駒を落胆させる台詞でしたね。おそらくこの台詞は、今後のキーワードになるやもしれません。
A:そうですね。その視点に注目していきたいと思います。ところで駒の意を受けた堺の今井宗久(演・陣内孝則)が、〈甲冑を着ずに上洛せよ〉という話を光秀にしましたね。『太平記』では、佐々木道誉役として出演していた陣内さんの高笑いのトーンが30年の歳月を感じさせるという印象でした(笑)。 佐々木(京極)道誉と同じ佐々木一族の六角承禎(じょうてい)が 地図上のみの登場というのも残念でしたね。
I:甲冑を着ずに上洛というのは、さっそく織田家中で議論になりました。
A:柴田勝家(演・安藤政信)が〈それは三好側の罠じゃ!〉と叫んでいましたが、正論だと思います。議論が白熱していましたが、信長は義昭の意見を聞きにいきます。同床異夢ではありますが、蜜月な関係です。このふたりがどう仲違いしていくのか、それがどう演じられていくのか、楽しみな部分ですね。
I:私は、今井宗久が、〈織田様の戦の切り盛りをしている帰蝶様〉という台詞が気になりました。また、今週も台詞の中のみの登場ですかと。そろそろ帰蝶ロスの人が出てくるかもしれません。帰蝶さんに会いたいです!
A:まあまあ(笑)。 ところで今週は今井宗久が茶を点てる場面がありました。茶道歴うん十年のIさんはどう見ましたか?
I:この時代は、千利休登場前で今に伝わるお作法以前の段階ですが、今井宗久のお点前は、現在の裏千家と表千家の作法を織り交ぜて点てている印象でした。
A:なるほど。そういう見方ができるって面白いですね。
●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』(藤田達生著)も好評発売中。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり