春うらら--。令和2年もまた、桜満開の季節がやってきた。サライ4月号の大特集「桜の旅 三都物語」の中から、京都の花見処を紹介する。
【京都府庁旧本館】
京都市上京区 桜の見頃:3月下旬~4月中旬
洋館に囲まれた中庭で数種類の桜に包まれる
明治37年12月20日に竣工『京都府庁旧本館』は、見ごたえのある洋館である。
京都府庁本館として昭和46年まで使用されていた煉瓦造りの建物。約55ある部屋は、執務室や会議室として今でも現役だ。平成16年に国の重要文化財に指定され、現役の官公庁の建物の中でも、竣工当時の形が残る、日本最古のものだ。
「京都観光文化を考える会・都草」の岸本幸子理事が解説する。
「外観は西洋風ですが、内部は和洋折衷。設計者が松室重光さんだからです。東京帝国大学に学び先輩が東京駅を手がけた辰野金吾さん、その先生がジョサイヤ・コンドルさん。つまりルネサンス様式を勉強されていた。でも日本人なので、和の要素が入ったのです」
2階南東角に位置する知事室は豪奢な造りに息をのむ。大理石を使った暖炉や格天井など、一段高い格調がある。
「菊の御紋をあしらったテーブルがあります。大正天皇と昭和天皇が、京都御所で御大典(大礼の儀式)をされた時に府庁舎に寄られ、使用されました」
食堂などを挟んだ旧本館中央に位置するのが「正庁」。格式の高い折上小組格天井が見事だ。
「大正天皇の御大典の際に、大隈重信内閣が閣議を開いた部屋です」
桜で埋め尽くされる中庭
桜は、建物が囲む中庭に。枝ぶりが見事な7本(1本は若木)だ。
中央に凛と立つのは、「祇園枝垂れ桜」である。円山公園にあった祇園の枝垂れ桜の実生木(種子から育てた苗)を16代桜守・佐野藤右衛門さんが植えた。昭和30年代のことだった。
左手には、2本の大島桜に挟まれる「容保桜(かたもりざくら)」。大島桜と山桜両方の特徴を持つ。京都守護職だった松平容保公に因んだ、藤右衛門さんの命名。
庭の東側、正面から一番奥が、「紅八重しだれ桜」。一本南側には「はるか桜」がある。
「福島県から寄贈された、東北復興のシンボルである八重桜『はるか』です」
と、岸本さん。
「本数は少ないですが、この小さな空間が、満開の桜の花で埋め尽くされる様は本当に綺麗ですよ」
桜の花に抱きしめられているような心持ちになれるのだという。
撮影/今宮康博(桜)
散策の途中に訪ねたい桜名所
いたるところで桜に出会えるのが京都の春。しかし、あえて足を運びたいスポットがある。
定番なるも、見逃したくない花見処を紹介する。
【京都御苑】
枝垂れ桜や里桜に加え、山桜や霞桜など、約1100本が御苑内に咲き誇る。
見逃せないのは、近衛邸跡の枝垂れ桜だ。通称「糸桜」。薄紅色の花をつけた細い枝が風に揺られる様に、思わず見入ってしまうほど。枝は水平に広く伸びているため、下から見上げると桜の天蓋のよう。また、枝が池にせり出している部分もあり、水面に映る花もまた別の楽しさを供してくれる。3月の中旬から咲き始める。
出水の小川(南西部にある人工の小川)向かいにも足を運びたい桜がある。「出水の枝垂れ桜」だ。中立売御門近くの「車返しの桜」も見逃せない。第108代天皇・後水尾天皇が、あまりの美しさに御者を引き返させた逸話がある。
【鴨川公園】
両岸で桜を楽しめる鴨川には、主に2か所の見どころがある。
まずは、出町橋から下鴨神社の西を上流へと向かって北山大橋あたりまで。葵橋から北山大橋までの両岸は、染井吉野が並ぶ。巨木が多い西岸もいいが、隙間なく桜が続き、土手に桜のトンネルが現れる東岸も楽しい。
「半木(なからぎ)の道」と呼ばれる北大路橋から北山大橋までの東岸は紅枝垂れ桜の名所で、染井吉野が散る頃が見頃となる。
もう一か所は、枝垂れ桜と染井吉野が混在する三条大橋から四条大橋までの歩道。桜越しに鴨川、さらに対岸に料理店が並ぶという京都ならではの風景が堪能できる。花街、宮川町に隣接する団栗橋から五条大橋までもぜひ。
【円山公園】
京都でも有数の桜の名所が円山公園だ。回遊式日本庭園があり、料亭や茶店もある園内は、春を満喫するにはもってこいのスポットである。中でも、「祇園の枝垂れ桜」の名で親しまれている桜は必見。正式名称は「一重白彼岸枝垂れ桜」だ。この桜は2代目。江戸時代からこの地にあったが、樹齢200年ほど経って枯死した後、2代目が植えられた。
春空の下で眺めるのもいいが、ライトアップも素晴らしい。その神秘な姿は、思わず引き込まれてしまうほど魅力的だ。
園内には、染井吉野、山桜、八重枝垂れ桜など、680本の桜がいたるところでその美しさを競う。
桜に抱かれて、一日たっぷりと楽しめるのが円山公園だ。
※この記事は『サライ』本誌2020年4月号より転載しました。