文・写真/角谷剛(海外書き人クラブ/米国在住ライター)

「ユニオン・ステーション」と呼ばれる駅は全米各地に数多くある。複数の鉄道会社や交通機関が共同で利用することを目的に整備された中央駅を指す名称である。

20世紀前半、鉄道が都市間移動の主役であった時代、アメリカ各地の主要都市には交通の集約点としてユニオン・ステーションが建設された。ロサンゼルスのそれも1939年の開業である。市庁舎へ徒歩約10分という、まさに都市の心臓部に位置している。市庁舎からさらに1kmほど先には日本領事館もある。

現在この駅には、全米を結ぶ長距離鉄道アムトラック、郊外都市と都心を結ぶメトロリンク、地下鉄と路線バスを運行するロサンゼルス・メトロが乗り入れている。ここ数年、日本人観光客が急増しているドジャー・スタジアム行きシャトルバスの発着地でもある。

アメリカ西部地方では最も混雑する駅ではあるが、それでも一日の利用者数は約10万人程度。ギネスブックに世界最多と認定された新宿駅のそれは300万人を超えるということなので、日本の主要駅と比べると閑散とした雰囲気を感じるかもしれない。

駅前の道路標識。正面にメキシコ人街、右が日本人街、左が中国人街。

ロサンゼルスのユニオン・ステーションは「絵になる」駅だ。日本の駅のような便利さはないが、スペイン・コロニアル様式を基調とした建築による駅舎は中を歩いても、外から眺めても楽しい。

駅舎外観。
駅構内。

もっとも、建物が美しいということだけなら、他都市のユニオン・ステーションも多かれ少なかれ同様である。この駅の際立った特徴はむしろ周辺にある。ロサンゼルスという都市の成り立ちを凝縮したかのような、多民族・多文化の空間が広がっているのである。

駅前広場から続くオルベラ街一帯は、ヒスパニック系コミュニティの歴史的な空間である。この地は18世紀後半、スペイン統治下で築かれた集落に起源を持ち、ロサンゼルス発祥の地とされている。つまり、ロサンゼルスより古い。

19世紀半ばにカリフォルニアがアメリカ合衆国に編入された後も、メキシコ系住民はこの地域に暮らし続け、独自の言語や宗教、食文化を保ってきた。現在は観光地として知られるが、その根底には、ヒスパニック文化がこの街の周縁ではなく、基層として存在してきた歴史がある。

オルベラ街。

駅に戻り、地下鉄ロサンゼルス・メトロの路線図を見ると、Aラインの隣の駅がリトルトーキョー、その反対側の隣がチャイナタウンである。どちらも徒歩でも行ける至近距離だ。

リトルトーキョーは20世紀初頭、日本からの移民によって形成された。農業や商業に従事する人々が集住し、寺院や日本語学校、商店街を築いたが、第二次世界大戦中の強制収容によって街は一時的に機能を失う。戦後、戻ってきた人々が再建し、現在のリトルトーキョーが形づくられた。

リトルトーキョー。

チャイナタウンもまた、苦難の歴史を背負っている。19世紀後半からの中国系移民は、労働力として不可欠であった一方、厳しい差別と排斥にさらされた。現在のチャイナタウンは1930年代に再整備されたもので、ユニオン・ステーションの建設とほぼ同時期に都市景観の一部として組み込まれた。

チャイナタウン

ロサンゼルスのユニオン・ステーション周辺を歩くことで見えてくるのは、異なる民族コミュニティが都市の中枢に近接しながら存続してきたという事実である。この状態はしばしば「民族のサラダボウル」と表現される。サラダボウルとは、具材が溶け合って一体化するのではなく、それぞれの形や味を保ったまま一つの皿を構成する状態を指す比喩である。

ロサンゼルスには他にも多様な民族コミュニティが存在する。

20世紀初頭から移住が進んだフィリピン系住民は、教会や地域団体を核にコミュニティを築いてきた。フィリピノタウンはユニオン・ステーションの西側、約4kmの位置にある。

韓国系住民の集住地であるコリアタウンは、1960年代以降の移民増加を背景に急速に発展した。こちらもユニオン・ステーションの西側、約8kmの位置にある。

ダウンタウンの北側には世界有数のアルメニア人コミュニティであるリトル・アルメニアがあり、そのすぐ近くにはタイ系住民が集うタイ・タウンがある。それぞれ地下鉄ロサンゼルス・メトロのBライン「Vermont / Sunset」、「Hollywood / Western」が最寄り駅だ。

ロサンゼルスは民族と文化の多様性を前提に都市が成り立ってきた。交通の要衝である中央駅周辺に多くのエスニックタウンがひしめいている事実がその象徴であると言えよう。

ロサンゼルス市内・郊外路線図: https://cdn.beta.metro.net/wp-content/uploads/2025/09/19112839/26-0250_blt_GM_MlinkAmtrak_47x47.5_DCR.pdf

文・写真 角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

 

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