文/ケリー狩野智映(海外書き人クラブ/スコットランド・ハイランド地方在住ライター)
スコットランド・ハイランド地方東部のスペイ川周辺地域スペイサイドは、50を超えるウイスキー蒸溜所がひしめくスコッチウイスキーの名産地。ここで造られるモルトウイスキーは、華やかな香りと甘く芳醇な味わいで世界的に高い人気を誇る。
そのスペイサイド地域も含めたハイランド地方で現在も稼働している最古の蒸溜所は、ストラスアイラ(Strathisla)蒸溜所。創業1786年のこの蒸溜所は、1950年に創業1801年の老舗シーバスブラザーズ社に買収された(そのシーバス社も現在ではフランスの酒類業界大手ペルノ・リカール社の傘下にある)。それ以来、全世界100か国以上で販売され、日本でも知名度の高いブレンデッドスコッチウイスキー「シーバスリーガル」のキーモルト(ブレンドの中核となるモルトウイスキー原酒)を蒸溜している。
今回、ウイスキー大好き人間の筆者は、「Home of Chivas(シーバスの故郷)」とも呼ばれるこのストラスアイラ蒸溜所で、自分なりのブレンデッドウイスキーを創作するワークショップに挑戦した。
とびきりインスタ映えする蒸溜所

東洋の寺社建築に着想を得たパゴダ(仏塔)屋根が趣深い2つのキルン(麦芽を乾燥させる乾燥塔)、伝統を感じさせる建物の数々、手入れの行き届いた前庭。ストラスアイラ蒸溜所は、とびきりインスタ映えするその美しい外観で人気の高い観光スポットのひとつだ。
このように歴史深く、情緒あふれる蒸溜所でスコッチウイスキーのブレンディングを体験できるなんて、夢のような話だ。風格ある門を抜けてビジターセンターへ向かうと、ワクワク感が一気にこみ上げてくる。

実験室のような会場
今回の参加者数は10名で、うち女性は筆者を含めて4名。筆者と筆者の配偶者以外は米国人で、ニューヨーク州とマサチューセッツ州からの訪問者だった。
案内役のジョーイさんに導かれてワークショップ会場に入ると、中央の長テーブルの上に一式のグラス、メスシリンダー、三角フラスコ、空の200mlボトルがセッティングされたトレイが10人分用意されており、まるで化学の実験室に足を踏み入れたかのよう。

テーブルの中央には、5つの分液ロートが並んだスタンドが2台。それぞれの分液ロートに異なるタイプの原酒が入っているのだ。そして参加者各自のトレイにも、原酒が入った蓋付きのグラスが5脚用意されている。
「実験道具」の使い方の説明を受けた後、トレイ上のグラスに入った5種類の原酒を順に試飲。案内役のジョーイさんは、それぞれを試飲するごとに、提供されている用紙に自分なりの感想と評価をメモするようにとアドバイスする。
ジョーイさんが立っている位置に一番近いもの(筆者の場合は向かって左端)から始め、一番最初はトウモロコシや小麦、ライ麦を主原料とするグレーンウイスキー原酒。グレーンウイスキーはブレンドの重要なつなぎ役で、異なる音色のモルト原酒がともに美しいハーモニーを奏でることを可能にする「オーケストラの指揮者」のような存在だとジョーイさんは表現する。
ここで用意されたグレーンウイスキーは、シーバス社唯一のグレーンウイスキー蒸溜所で、グラスゴー郊外にあるストラスクライド(Strathclyde)蒸溜所で造られたもの。シーバス社のブレンデッドウイスキーの配合は、グレーンウイスキー原酒が20%程度だそうだ。

お次はモルト1。爽やかな柑橘系のアロマを感じさせるモルト原酒で、蒸溜所名は教えてもらえなかったがハイランド産だそうだ。
モルト2は、ここストラスアイラ蒸溜所で造られたもの。ジョーイさんは、リンゴや洋ナシのような果樹園の果実の味わいと表現したが、筆者はメープルシロップのような風味を感じた。味の感じ方は人ぞれぞれなので、「正解」や「不正解」などはない。
モルト3は、クリーミーでまろやかな口当たりで、上品だが主張のある甘み。ジョーイさんが個人的に一番気に入っているモルト原酒だそうだが、こちらもどの蒸溜所のものかは明かしてくれなかった。
最後のモルト4は、ガラスの蓋を外したとたんにピート香が漂うスモーキーなモルト原酒。口に含むと、強い余韻のスモーキーな風味が口腔に広がるが、程よい甘さで飲みやすかった。筆者の配偶者がその出自を訊ねると、「企業秘密」との返事が返ってきた。
いざ、傑作を創作!
テーブル中央の5つの分液ロートには、これら5種類の原酒が手前の試飲グラスと同じ順序で入っている。試飲したときのメモを参考に、これらの原酒を各自の好みと感性で組み合わせて独自のブレンデッドウイスキーを創作する訳だが、このワークショップの所要時間は45分。その時間内で、自分が納得できるまで「実験」を繰り返すことができる。

ジョーイさんの話では、数式で理想的な原酒の配合分量を割り出すかのような、科学的なアプローチでブレンディングする参加者もいたとか。筆者は純粋に自分の直感に任せることにした。
筆者の試作1では、スモーキーなモルト4以外の原酒をまんべんなく使ったが、モルト3の分量は他の倍にした。悪くない出来だったが、若干個性に欠ける。
試作2ではモルト1を使わず、グレーンウイスキーとモルト2、3、4でそれぞれの分量を何度か微調整してみたが、「これだ!」という仕上がりに到達できない。筆者の配偶者も、隣で独り言をつぶやきながら試行錯誤を続けている。2人とも気分はすっかりマスターブレンダーだ。

納得できる味わいを達成したのは試作3。グレーンウイスキーを一切使わないブレンデッドモルトウイスキーにした。キャラメルのような香ばしい香りとフルーティー感、バランスのとれたまろやかで芳醇な味わい。我ながらの傑作だ! 配偶者がレシピを訊ねてきたが、「企業秘密」ときっぱり答えた。
メモした配合で200ml分をブレンドしてボトル詰めし、提供されたラベルにブレンド名を書き込む。筆者はこの傑作を、「Accidental Concoction(偶発的な調合物)」と命名した。紐でラベルをくくり付けたボトルを手に取ると、ブレンダーとしてデビューを果たしたかのような自己満足感が沸き上がる。

このウイスキーブレンディングワークショップは、所要時間45分で料金は大人1人45英ポンド(約9000円)。前述のように、自作のブレンデッドウイスキー200mlを持ち帰ることができる。
ストラスアイラ蒸溜所があるスペイサイド地域のキース(Keith)村へは、公共交通機関で行くなら、スコットランドの首都エディンバラのウェイヴァリー(Waverley)駅から電車でまずアバディーン(Aberdeen)へ行き(約2時間半)、アバディーンでローカル線に乗り換えてキース駅で下車(約1時間10分)。蒸溜所は駅から徒歩約10分の距離にある。
一般的な蒸溜所見学・試飲ツアーとは一味も二味も違うこの体験は、内に秘めたマスターブレンダーの才能を開花させるきっかけになるかも!?
ストラスアイラ蒸溜所のウェブページ:https://www.maltwhiskydistilleries.com/strathisla/distillery
ブレンディングワークショップを予約できるページ:https://www.maltwhiskydistilleries.com/strathisla
文/ケリー狩野智映(スコットランド在住ライター)
海外在住通算30年超。2020年よりスコットランド・ハイランド地方在住。翻訳者、通訳者、コピーライター、ライター、メディアコーディネーターとして活動中。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織海外書き人クラブ(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。
