文・写真/角谷剛(海外書き人クラブ/米国在住ライター)

“Santa Fe”(サンタフェ)と名付けられた土地は米国内に数多くある。なかでもニューメキシコ州都のそれがもっとも有名である。

日本では宮沢りえの写真集が撮影された土地として知られているが、地元の人がそれを聞けば、あまり喜ばないかもしれない。なぜなら、サンタフェとはスペイン語で「聖なる信仰」を意味する言葉なのだ。その名の通り、市内には古い教会関連の建造物が多く、現在でも人口の約半数がカソリック教徒だとされている。

サンタフェ中心部に建つCathedral Basilica of St. Francis of Assisi(聖フランシス大聖堂)。

現在のニューメキシコ州サンタフェは1610年にスペイン領ヌエボ・メヒコ州の州都として制定された。日本の年号では慶長15年。徳川家康がまだ健在で、大坂夏の陣がはじまる5年前のことだ。

むろん、その頃はまだ北米大陸にアメリカ合衆国は存在していない。歴史の教科書によく登場するメイフラワー号が新天地を求めた清教徒たちを乗せて現在のニューイングランド地方に到着したのはサンタフェ制定から10年後のことである。

それから約300年の紆余曲折を経て、1912年になってようやく、アメリカ合衆国第47番目の州としてニューメキシコ州が成立した。サンタフェはそのまま州都として残り、現在に至っている。現存する都市としてはアメリカで2番目に古く、州都としては最古である。

もっとも、人口や経済規模では、ニューメキシコ州最大の都市はアルバカーキであり、サンタフェは静かで落ち着いた古都の佇まいを保っている。観光都市ではあるが、さほどの混雑はない。日本の奈良に事情は多少似ているかもしれない。

1610年建立のSan Miguel Church(聖ミゲル教会)。米国最古の教会建造物と案内板にある。

サンタフェはとても歩きやすい街だ。サンタフェ・プラザという正方形の広場が中心にあり、その周囲を碁盤の目のように道路が走っている。建物はアドべ(Adobe、日干しレンガ)で統一され、狭い地域に歴史的建造物や博物館などの観光スポットがひしめく。端から端まで歩いても数km程度の規模である。

ホテルとレストランはまずまず十分な数だけあるので、数泊程度の旅行であれば不自由はないだろう。サンタフェは芸術家が多く住んでいるということで、市内にはギャラリーも多い。筆者が受けた印象を述べるならば、美しい自然や宗教観をテーマにしたものがほとんどで、前衛的あるいは革命的な芸術作品はあまり見かけない。ヌード写真集はどこにも売ってはいない(たぶん)。

ニューメキシコ州会議事堂。

サンタフェは村上春樹のベストセラー『ノルウェイの森』にも登場する。主人公の「僕」がある画家をインタビューするためにこの街を訪れ(やはり芸術家が多いのだ)、「奇蹟のように美しい夕陽を眺めていた」という部分だ。

筆者も短い滞在中、そんな夕陽を見ることができた。すべての建物が低く、空が広いこの街では、自然もまた景観に大きな役割をはたしている。

ホテルの窓から眺める夕陽。

サンタフェを訪れる観光客は100km程離れたアルバカーキを経由するのが一般的だ。この両都市間を往復するにはバスやタクシーを利用するか、あるいは2006年に運用を開始したばかりの鉄道(New Mexico Rail Runner Express)という選択肢もある。

アルバカーキ駅は他の鉄道や長距離バスのターミナルも合わせた大きな建物だが、サンタフェ駅はまるでバス停を思わせる小屋のような駅舎だ。乗車券は駅では購入できず、乗車してから車掌に運賃を支払う。

駅を離れるとほとんどの区域が単線になり、しばしば通過待ち合わせが発生する。筆者が利用したときは片道で約1時間半かかった。あるいはバスの方が早く着くかもしれない。日本の優秀な鉄道システムに慣れた人は戸惑うかもしれないが、車窓から雄大なニューメキシコの地平線を眺めながら、ゆっくりと旅情にひたるのも悪くはない。真新しい鉄道なので、車内はきれいだ。

サンタフェ駅。

サンタフェ観光案内ウェブサイト https://www.santafe.org/visiting-santa-fe/

文・写真 角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

 

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