文・写真/佐藤モカ(海外書き人クラブ/イタリア在住ライター)
ミラノ、ヴェネツィア、フィレンツェ、ローマなど、イタリアの主要都市間の移動に便利なのが旧イタリア国鉄であるトレニタリアの高速列車、フレッチャロッサだ。トレニタリアは日本のJRに相当する会社で、高速列車フレッチャロッサは日本の新幹線の立ち位置である。
フレッチャロッサとは「赤い矢」という意味で、その名にふさわしく最高時速360km(日本の新幹線の最高時速は320km)でイタリアを南北に縦断し、各主要都市を結んでいる。
一昔前まではイタリアの鉄道と言えば汚い、遅れると悪い噂ばかりだったが、近年では車両も一新されて少なくとも汚いという印象はなくなった。遅延は残念ながらゼロではないが、それでも昔に比べれば状況は大きく改善し、車内の無料Wi-Fiや映画配信などのサービスも向上している。
フレッチャロッサは全席指定席だ。スタンダード、プレミアム、ビジネス、そしてエグゼクティブという4種類の座席があり、それぞれに受けられるサービスが異なっている。
筆者は一番下のスタンダードクラスでも十分に快適と感じるが、時期によっては観光客で賑やかなこともあるので、仕事の移動では一つ上のプレミアムクラスを利用することが多い。プレミアムクラスでは水とスナックのサービスがあり、座席もスタンダードよりやや広い作りになっている。
さらに上のビジネスクラスでは座席同士の間隔が広くなるほか、携帯電話での通話や会話が禁止されているサイレント・エリアなども設置されている。
フレッチャロッサで最上級のクラスであり、最もラグジュアリーな体験ができるのが、今回紹介するエグゼクティブクラスだ。飛行機でいうならファーストクラスに相当するのがこのクラス。なんと1編成に10席しかない、まさに選ばれし者のみが座ることができる特別な席で、フレッチャロッサ先頭の1号車に配置されている。
日本にも、東北・北海道新幹線や北陸新幹線、上越新幹線にグランクラスというハイクラスな座席が導入されている。サービス内容や価格も近いため、今回は参考までに2つの鉄道の最上級座席を簡単に比較してみた。
まず価格は、グランクラスは東京・富山間で27600円。フレッチャロッサのエグゼクティブはほぼ同じ距離のローマ・ボローニャ間で180ユーロ(日本円で約30000円、価格は変動する可能性あり)だ。
グランクラス利用客は出発前にビューゴールドラウンジを利用することができるが、イタリアでも同じようにフレッチャラウンジという待合室を利用することができる。
次に座席を見てみよう。グランクラスの前後の座席間隔は1m30cm、背もたれや座席、レッグレストなどが連動して最大45度までリクライニングを倒すことができる。
対するイタリアは「最高のサービスを提供するエグゼクティブ」という言葉通り、座席同士の前後の間隔はなんと1m50cmもある。リクライニングも138度まで倒すことができ、レッグレストも手元のリモコンで45度まで上げることができるため、身体を伸ばしてゆったりと寛ぐことができるのが特徴だ。前後間隔が広いため、前の人を気にすることなく足を伸ばして、疲れた体を癒すことができる。
日本と大きく違うのは、アメニティだ。グランクラスにあるスリッパやアイマスクなどのアメニティ配布サービスは、イタリアのエグゼクティブにはない。イタリアでは室内でも土足で過ごすことが多いので、寛ぐために靴を履き替えるという感覚がそもそもないのかもしれない。
また、イタリアの1号車後方にはガラスで仕切られた会議室が併設されており、エグゼクティブ利用者は無料で利用できるようになっている。
旅の楽しみの一つである食事だが、グランクラスには軽食付きと軽食なしの2種類の列車があり、軽食は和食、洋食、茶菓子などから選ぶことができるようだ。公式サイトを見てみると見た目にも可愛らしい一口サイズの料理が綺麗に箱に詰められていて、さすがお弁当文化のある日本といった趣だ。
一方、イタリアのエグゼクティブはウェルカムドリンクのほかに、標準で食事がついている。乗車してすぐに渡されたメニューには朝食、スナック、ランチ、ディナーなどの項目があり、好きな料理や飲み物を組み合わせてオーダーすることが可能だ。
最大でも1車両に10名しか乗客がいないのでサービスも行き届いており、「1時間後にランチを持ってきて欲しい」「食事の前にアペリティフをしたいので、ワインとつまみを先に出して欲しい」などの細かい要望にも快く応じてもらえる。
実際に乗ってみると、ちゃんと温かい料理が陶器の食器で提供されるだけでなく、ワインやカクテルなどドリンクの種類も豊富なことに驚いた。
イタリアでは排気ガス削減のため、今まで以上にグリーンな旅ができる鉄道旅行に注目が集まってきている。乗ってみるまではビジネスマン向けのサービスかと思っていたが、意外と乗車中に仕事をしている人は少なく、半数以上の人がゆったりと寛いで旅を楽しみたい様子だった。
これまでのイタリア鉄道のイメージを覆すハイクラスな鉄道旅で、ゴージャスな気分を味わってみるのはいかがだろうか。
Trenitalia 公式サイト:https://www.trenitalia.com/en.html
文・写真/佐藤モカ(海外書き人クラブ/イタリア在住ライター)
2009年よりイタリア在住。イタリア在住ライターとして多数の媒体に執筆する他、マーケティングリサーチャー、トラベルコンサルタント、料理研究家など幅広く活動。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。