湯の郷には旨いものがある。自然の豊かな場所に古くから人が住み着き、山海の食材を用い、独自の食文化を形成してきたからだ。こんこんと湧く湯で体を休め、冬の美味を堪能したい。

穏やかな琵琶湖の佳景を愛で野生の力強さを嚙みしめる
旅館 紅鮎

特別室の檜の半露天風呂。竹生島が目の前に見える。敷地内の地下200mほどから湧く源泉は弱アルカリ性で、少し鉄の匂いがする。

琵琶湖の北東部、湖に突き出すように佇む『旅館 紅鮎』。「おかえりなさいませ」と旅人を迎える全15室の落ち着いた宿である。ロビーラウンジはもちろん、客室や大浴場から奥琵琶湖と竹生島の絶景を楽しむことができる。

「昭和33年(1958)の創業時に、掘削し温泉が湧出しました。当時の泉質はヒドロ炭酸鉄泉でしたが、昭和63年(1988)にもともとあった源泉から少し離れた場所で新たな温泉が湧きました」と話す専務の山本享平さん(46歳)。冷鉱泉ながら、とろみのある成分の濃い温泉である。

琵琶湖を見晴らす露天風呂がある大浴場も気持ちがいいが、全客室に半露天風呂が付き、源泉がそのまま引かれている。21℃の源泉を好みの温度に加温し、入浴。湯の花が浮かぶ黄金色のやわらかい湯が肌に浸透するようだ。

湖北の食文化に出会う

美食の宿として知られる『旅館 紅鮎』では、春はモロコやびわ鱒、夏は鮎、秋は鰻、そして冬は郷土料理の真鴨が味わえる。かつて湖北ではシベリアから琵琶湖へ飛来する真鴨は特産品として江戸幕府に献上されたという。現在は琵琶湖での狩猟は禁止となっているが、その食文化は引き継がれ、各家庭で鴨鍋や鴨すきが食卓に上がる。

鴨すきプランは八寸、お造りなどのあとに鴨すき(画像は2人前)が味わえる。九条葱などと、鴨の心臓や砂肝などや、頸のたたき身の団子を入れ煮込み、鴨ロースを加え、生卵にくぐらせていただく。真鴨は新潟産を使用。

11月15日から始まる鴨すきプランでは、鍋に野菜を並べ、鰹と昆布のシンプルな出汁を入れ砂糖と醤油で味を調え、真鴨の頸のたたき身を団子にして加える。これが出汁に深みと旨味を与える。ロース肉は軽く火を通す程度でいい。噛むごとに広がる野生の力強い風味と、真鴨の脂が染みた九条葱。まさに口福の好相性である。

和室や和洋室があり、野鳥観察のための望遠鏡を備える。 

旅館 紅鮎

滋賀県長浜市湖北町尾上312
電話:0749・79・0315
料金:3万250円~
チェックイン14時、同アウト11時
泉質:ナトリウム-炭酸水素塩泉
交通:JR北陸本線高月駅から無料送迎バスで約10分

取材・文/関屋淳子 撮影/小林禎弘

※この記事は『サライ』本誌2023年12月号より転載しました。

『サライ』12月号特別付録は『2024年日本美術“吉祥”「辰年」カレンダー』

 

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