文・写真/角谷剛(海外書き人クラブ/米国在住ライター)

ヨセミテ国立公園内のジョン・ミューア・トレイル。

アメリカ合衆国第26代 大統領セオドア・ルーズベルトは日露戦争の仲介役として日本近代史に登場する。そして米国史における歴代大統領のなかでも最も人気の高い政治家のひとりだ。1901年から1909年までの2期8年に及んだ在任中、国内経済でも外交でも様々な分野で業績を残したが、米国に国立公園の理念を確立させた自然保護主義者としても知られている。

そのルーズベルトの自然観に強い影響を与えたと言われる人物が植物学者でシエラクラブの創設者でもあるジョン・ミューアである。

伝説のヨセミテ山中キャンプ

夜明けのヨセミテ峡谷。

カリフォルニア州北部にあるヨセミテ峡谷は米国のみならず世界的な人気を誇る観光地だ。既に19世紀半ば頃から周辺の開発と観光地化が始まっていたが、当時の米国には現在のような自然保護の観念は希薄だった。放牧や森林伐採による環境破壊をコントロールする政府機関もなかった。

ヨセミテの自然が失われることを憂慮したミューアはヨセミテ山中でルーズベルトと3日間のキャンプを行い、ヨセミテを連邦政府の保護下におくことを説得した。1903年5月のことで、ルーズベルトは現職の大統領任期中だった。セキュリティの懸念から反対する声は出なかったのだろうか。現在では想像することすら難しいことだ。

ミューアの説得は実り、ヨセミテ峡谷はまもなく連邦政府の管轄下に移った。そうした功績からミューアは「米国自然保護の父」と呼ばれている。

ジョン・ミューア・トレイルの観光ルート部分を歩いてみる

滝に近づいていく登山道はよく整備されている。

そのミューアの名を冠した自然道(トレイル)がある。ヨセミテ峡谷を起点とし、カリフォルニア州最高峰のマウント・ホイットニーまで続く、全長340キロメートルの縦走路だ。

長大なジョン・ミューア・トレイルのすべてを踏破することは非常に困難だと思われる。必要とされる体力も装備も時間も、少なくとも筆者には手が届かないレベルだ。登山家や冒険家など、筋金入りのアウトドアマンにしかできないことのはずだ。

しかし、ヨセミテ国立公園を訪れた人なら誰でもトレイルの一端だけなら歩いてみることはできる。なにしろ起点のハッピー・アイルは公園内を周る無料シャトルバスの停車場にまでなっているのだから、アクセスは容易だ。

谷底のような位置にある起点からマーセド川沿いの登山道を登っていくと、それまでは見上げていたバーナル滝やネバダ滝に近づき、そしてそれらを逆に崖から見下ろすポイントに着く。ここまでの行程は数キロ程度。途中かなり険しい部分はあるにせよ、ハイキング程度の装備で気軽に歩くことができる観光ルートだ。案内板によれば、バーナル滝は往復2~4時間、ネバダ滝は往復5~6時間とのことだ。

各ポイントへの距離を示した道標。

ネバダ滝を過ぎるとハイカーの数はめっきり減るが、もちろんジョン・ミューア・トレイルの道はまだまだ続く。有名なハーフドームをかすめ、ヨセミテ国立公園の東側を出ると、南に方向を変え、キングズ・キャニオン国立公園を通り抜け、そしてセコイア国立公園に入る。前述した通り、マウント・ホイットニーが終点である。

ドライブ旅行で感じるジョン・ミューアの理念

セコイア国立公園入口。

日本からの直行便も多いサンフランシスコ国際空港でレンタカーを借りると、ヨセミテ国立公園へは4時間ほどのドライブで着くことができる。そこからセコイア国立公園まで足を伸ばしても、やはり4時間程度のドライブだ。

所々のスポットに車を停めて、ほんの少しでもトレイルを歩いてみるだけでいい。ミューアら先人が守り、我々に残してくれたシエラネバダの自然を感じられるはずだ。

ヨセミテ国立公園公式ウェブサイト:https://www.nps.gov/yose/index.htm

文・角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

 

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