文・写真/梅本昌男(海外書き人クラブ/タイ・バンコク在住ライター)
2006年、トルコからエジプトへアラビア半島を南下した。長距離バスに揺られながら移動し、安宿に泊まりながらの中年バックパッカー旅だった。
その際に訪れたシリアの世界遺産の紹介などを数回したが、あの国の旅話を最後にもう一回だけさせて欲しい。
* * *
人が旅をした時、想い出に残るものは何だろう? 美しい自然、荘厳な建築、天才たちの美術品、そのお国ならではの料理……色々あるが、一番記憶に残るのはその土地で会った人々ではないだろうか?
シリアでは本当に多くの人たちと触れ合うことが出来た。
アレッポの路上で果物屋台を出していた若者。まだ中学生の利発そうな弟が店を手伝っていた。若者にリンゴを一個だけ買えないかと聞くと、「いいよ無料で、持ってけ持ってけ!」と手振りで答えてくれた。
そのアレッポの郊外の聖シメオン教会に行った際、帰りの足がなくて困っていると「乗ってけよ!」と声をかけてくれたオジサン。ひげ面で昔のマカロニ・ウエスタン映画の悪役みたいな顔つきだが優しかった。
アパメア遺跡の近くの遊牧民家族は、何と家の中に招いて写真を撮らせてくれた。伝統衣装を身にまとい、数世紀前とあまり変わらぬ生活を今も営んでいる様子が見て取れた。
首都ダマスカスの日本好きの大学院生。日本国旗の描かれた服に興味を持って声をかけると、彼の通う大学の校内を案内してくれた。
「お茶を飲んでいけよ!」とシリアではあちらこちらで言われた。イスラム教徒で酒をたしなまない彼らにはお茶が必需品だ。水パイプを吸いながら、ゆっくりとした時間を過ごす。
そして、子供たち。ハマの公園で出会った家族の小さな子供たちは、「これ食べて」「これ飲んで」と異国のおじさんを歓待してくれた。
すべてが良い想い出だ。そして、彼らは今どうしているだろう……。
文・写真/梅本昌男(タイ・バンコク在住ライター)
タイを含めた東南アジア各国で取材、JAL機内誌アゴラなどに執筆。観光からビジネス、エンタテインメントまで幅広く網羅する。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。