文・写真/梅本昌男(海外書き人クラブ/タイ・バンコク在住ライター)

ライトアップされたパルミラのアラブ城。

2006年、トルコからエジプトへアラビア半島を南下した。長距離バスに揺られながら移動し、安宿に泊まりながらの中年バックパッカーだった。

シリアもその旅の途中で訪れた国の一つだった。あの国には6つの世界遺産があるが、内戦でそれらは全て危機遺産に指定されることになった……。

往時の美しいシリアの世界遺産の姿をご紹介したい。

何時間もこんな砂漠の景色が続く。

シリア中部に広がる砂漠地帯。長距離バスの窓からの光景は進めども進めども、砂色の荒野ばかり。そこに突然現れるヤシの木に囲まれたオアシスがパルミラだ。ローマ時代に貿易で栄え、当時の遺跡が沢山残り1980年には世界遺産に指定された。

ツアー客は記念門と周辺を見学して帰る。

遺跡のスタート地点にあるのが記念門。ちょうどツアーの一行がいてガイドが英語で説明をしている。こういったツアー団体が時折やって来るくらいで遺跡はかなり静かだ。入り口もなく、ただ荒野に遺跡が広がっている。そのため入場料も払う必要がなかった(ベル神殿は例外)。

観光客目当てのラクダたちが控えている。

記念門を抜けると、巨大な列柱が並ぶ道がずっと続いている。円形劇場や浴場、神殿なども保存状態良く残っていた。

ご覧のように2世紀頃の遺跡が保存状態良く残っていた。
ローマ時代らしい円形劇場もご覧の通りの状態。
荒野の中に立つバルシャミン神殿。

夢中で写真を撮り続けていて、ふと気づいて見渡すと誰も周囲にいなかった。何と世界遺産を独り占めするという贅沢極まりない状態に!

世界遺産を独り占めして自撮り。

それで思い出したのが、ギリシャのアテネにある同じく世界遺産のパルテノン神殿に行った時の事。有名な神殿は世界中からの観光客で一杯。遺跡にはあちここちらに柵が設けられ、係員のオバチャンが違犯行為をした訪問者を見つける度に「ピ~ッ!」と笛を鳴らすのだが、その頻度がやたら多く、遺跡見物に集中することが出来なかった。世界遺産を守るために仕方ないのだろうが……。

エラベール家の塔墓。
墓の谷に点在する塔墓や地下墓地。

話しをパルミラに戻す。遺跡の西部には‟墓の谷”と呼ばれる豪商たちの墓がある。そこに歩いて行く途中で出会ったのが野犬の群れ。人間を恐れるどころか、こちらをグループで囲んでくる。私は夢中で足元の石を投げつけながら大声を上げた。この威嚇が功を奏して野犬たちは去ったが、本当に怖かった。

山の上に聳え立つアラブ城。
遺跡のそれぞれの位置関係が一目で分かる。
アラブ城の城壁。

遺跡の北西部には山の上に聳えるアラブ城がある。こちらも保存状態が極めて良かった。城から中心部の遺跡を見下ろすと往時の町の作りがよく分かった。

遺跡を出てすぐの場所が現在の町の中心街で、パルミラ博物館やレストラン、ホテルなどが並んでいる。ここでもシリアの人たちの笑顔と旅人を迎える暖かい心は変わらなかった。

串肉のカフタの屋台の親子もスマイルで応えてくれた。

文・写真/梅本昌男(タイ・バンコク在住ライター)
タイを含めた東南アジア各国で取材、JAL機内誌アゴラなどに執筆。観光からビジネス、エンタテインメントまで幅広く網羅する。海外書き人クラブ会員https://www.kaigaikakibito.com/)。

 

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