文・写真/梅本昌男(海外書き人クラブ/タイ・バンコク在住ライター)
2006年、トルコからエジプトへアラビア半島を南下した。中年バックパッカーで長距離バスに揺られながら移動し、安宿に泊まりながら。
これまでシリアの世界遺産を紹介してきたが、他にも美しかった場所が色々あった。例えば……。
シリア中部の西部に位置するハマ、国内で五番目に当たる規模の街だ。「水車の町」と呼ばれていて、20以上の水車が街の至る場所にあった。農業が盛んな地域で、紀元前11世紀頃から灌漑に水車が利用されていた名残りだという。街の真ん中に水車と公園があり、その周りを繁華街が囲んでいる。何とも穏やかな雰囲気だ。
歩いていると後部に水車の車輪を乗せた自動車に出くわした。修理を終えたものだろうか? そのままぶらついていると、今度は水車を作る工場を見つけた。こんな風にハマという街と水車は密接に結びついているのだ。
街の北西にある丘の上には元城塞がある。ここから街に点在する水車をあちらにこちらに見てとれる。
元城塞だった場所は緑に満ちた公園へ変貌。子供たちやファミリーが沢山いて楽しそうに時を過ごしていた。外国人観光客、特にアジア人は珍しいのだろう、彼らに大歓迎された。子供たちに「撮って撮って!」と次々にせがまれ嬉しい悲鳴を上げた。
ハマの郊外、北西約50キロの場所にあるアパメア。現地ではアラビア語名のカラート・アル=ムディクと呼ばれている。高台の何もない草原の真ん中に、列柱道路や神殿の遺跡が忽然と現れる。自分が夢でも見ているような、何とも不思議な感覚に襲われた。
このアパメア、実は、紀元前4世紀終わりから紀元前1世紀中盤まで存在したセレウコス朝が築いた都市の名残りだ。その後、ローマ帝国の支配下に入ったり、ササン朝ペルシアの襲撃を受けるなかで衰退していった。
その近くには農業を営む人たちの村があり、栄華を誇った遺跡のことなど全く気に止めていない風情でノンビリと暮らしていた。
文・写真/梅本昌男(タイ・バンコク在住ライター)
タイを含めた東南アジア各国で取材、JAL機内誌アゴラなどに執筆。観光からビジネス、エンタテインメントまで幅広く網羅する。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。