文・写真/梅本昌男(海外書き人クラブ/タイ・バンコク在住ライター)
2006年、アラビア半島を長距離バスに揺られ安宿に泊まりながら南下した。40代前半の中年バックパッカーだった。シリアもその旅の途中で訪れた。かの地には6つの世界遺産があったが、その後の内戦でそれらは全て危機遺産に指定されることになった……。
往時の美しいシリアの世界遺産の姿をご紹介したい。
シリア中部にある首都ダマスカス。この街の歴史は何と紀元前3千年前にまで遡る。交易で栄えたこの地は‟オリエントの真珠”とも呼ばれていたという。
私が訪れた2006年当時、ダマスカスは人口130万人を抱えた大都市へと変貌。官公庁や企業、高級ホテルなどが集まる新市街は活気に満ち、道路で渋滞が起きている程だった。
そこから東へ数百メートル移動した場所にあるのが旧市街だ。この街の起源たる場所で、1979年、世界遺産に‟古代都市ダマスカス”として登録された。
旧市街の西側で人々を迎え入れていたのがスーク・ハミティーエ。中央の主要道だけで600メートルもの長さを持つ巨大な市場だ。その上にはドーム天井が作られ強い陽射しを遮っている。主要道からさらに南に小さな路地が伸び、数えきれない程の店がこのエリアに集まっている。金から伝統衣装、骨董品、土産物まであらゆる物が売っている。
スーク・ハミティーエの横にはウマイヤド・モスクがある。715年建造の世界最古のモスクだ。メッカ、メディナ、エルサレムに次ぐイスラム教徒の4番目の聖地として知られている。その荘厳さにイスラム教徒ではない私も心を打たれた。ライトアップされた夜の姿は更に美しい。
旧市街の東側にはキリスト教徒の居住する一角もあった。その中でも有名なのが聖アナニア教会で聖書にも登場している。地下の洞窟の中に礼拝所が作られ、独特な雰囲気を醸し出していた。ここもIS(イスラム国)による破壊を受けたであろう……。
中心部から西に外れた場所にあるカシオン山もまた聖書に馴染みのある地だ。アダムやアブラハム、イエスさえもここを訪れた。また、兄カインが弟アベルを殺した人類最初の殺人が行われた場所とも言われている。標高1,151メートル、ダマスカスの街を一望出来る絶好のスポットだった。
宝石のように美しかった首都ダマスカス、今もこんな風に輝きを放っているのだろうか……。
文・写真/梅本昌男(タイ・バンコク在住ライター)
タイを含めた東南アジア各国で取材、JAL機内誌アゴラなどに執筆。観光からビジネス、エンタテインメントまで幅広く網羅する。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。