東京から南西に2000キロという遙けき彼方、沖縄本島からもさらに400キロ離れた波濤の先に、かつて司馬遼太郎が「東シナ海に浮かぶ夢の国のような島」と書いた島がある。八重山諸島、竹富島(たけとみじま)。隆起珊瑚礁によって形作られたこの小さな島は、最も沖縄らしい景観と文化を守り続けている島として、内外にその名を知られている。
面積は約5.4平方キロ、人口は400人に満たないという、まことに小さな島ではあるが、白砂を敷き詰めた路上に珊瑚の石垣(グック)を連ね、その上に伝統的な赤瓦の家並みが続く集落の美しい景観は、島民の高い文化意識とそれにもとづく独自の条例によって良好に保たれている。古きよき沖縄の集落を今に残すその町並みは、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。
景観だけではない。この島は「芸能の島」とも称されるほどに、唄や踊り、年中行事といった琉球古来の多様な無形文化が数多く残されている。とくに毎年10月下旬〜11月上旬に9日間かけて行われる種子取祭(たねとりまつり、タナドゥイ)は、その集大成ともいうべき竹富島最大の祭典であり、祭のハイライトとなる2日間には、島民たちの手によって数々の奉納芸能が上演される。
そんな竹富島にある唯一のリゾート施設が「星のや竹富島」だ。
固有の文化と景観を守るために、外部資本による観光施設の開発を頑なに拒んできたこの島で、初めて認められた宿泊施設である。事業主である星野リゾートと島民との間でのパートナーシップが実現した裏には、度重なる話し合いを通して、島固有の文化や景観を最大限に活かした施設を作るというコンセプトに共感と信頼を得られたためであったという。
果たして、2012年に開業した「星のや竹富島」は、そのコンセプトを体現した、他に類例のないリゾート施設となった。白砂を敷き詰めた道、人の背丈ほどもあるグックの街路、整然と並ぶ琉球伝統古民家のような宿泊棟、そして赤瓦を白い漆喰でかためた屋根の南面にシーサーが鎮座する……。まさにそれは、竹富島の人々が残したいと願っている島の集落の景観そのものだった。
開業から4年、国内外から高い評価を得ているこの特徴ある宿を、秋ふかまる沖縄・竹富島に訪ねた。
旅の起点は羽田空港。ここから那覇経由で石垣空港へと向かう。那覇行きの日本航空JAL903便は朝7時55分に成田空港を出発し、10時40分に那覇空港に到着。そこから11時15分発の日本トランスオーシャン航空JTA607便に乗り換え、12時15分に石垣空港へ到着した。所要時間ほぼ4時間。朝飯と昼飯の間だ。東京から日本の最南西エリアまでは、意外なほどに、近い。
なお羽田から石垣へは、JTAの直行便も飛んでいる。また、那覇経由で石垣に行く場合は、
石垣空港からタクシーで石垣港へ。ここから竹富島行きの高速船に乗る。竹富島までは、10分程度で到着する。
竹富島に上陸すると、すでに港には「星のや竹富島」のスタッフが待っていて、出迎えてくれる。車に乗り込み、宿へと向かう。島の南東にある「星のや竹富島」へは、港から7分ほどで到着する。途中、人家はほとんどなく、手付かずの樹叢の間を、輝くような白い道が続いていた。
さて、室内で荷物をおろして一息ついたら、短パンとTシャツに着替えて、地図を手に“集落内”の散策へ出かけるとしよう。
三線と島唄を聴きつつソファーでまどろんでいるうちに、やがて日は落ち、夜がやってきた。いったん宿泊棟に戻り、身支度を整えてから、夕食をとるためレストラン(メインダイニング)へと向かう。
「星のや竹富島」で供される夕食は「琉球ヌーヴェル」という言葉が象徴しているように、沖縄・八重山の食材をフレンチテイストで調理した唯一無二の料理。沖縄食材をこよなく愛しているというフランス料理の俊英・中洲達郎シェフのセンス光る独創的な料理が並ぶ。
食事を済ませて、いい気分で宿泊棟へと戻る。施設内とはいえ外は照明が暗めに落とされているので、足元に気を付けつつゆっくり歩を進める。残念ながら空は雲で覆われていたが、もし晴れていたら盛大な星空が広がっていたことだろう。また月が輝く夜であれば、白砂の道を明るく照らしてくれるのだろう。
次の日は朝早く目覚めました。ガラス戸を開け放ち、すがすがしい朝の風を室内に招き入れる。風の音しか聞こえない、閑寂なひととき。
しばらくソファベッドに寝そべり、庭をながめてボーっとしたあと、朝食をとりにレストランへ向かった。
朝食をすませたら、いよいよ島内観光へ出発。この島の名物アクティビティは「朝の水牛車散歩」である。
水牛車の散歩のあとは、西岸沿いに点在する美景スポットを巡った。
宿へと戻り、チェックアウト。レストランで軽く昼食をすませてから、名残を惜しみつつ、車で一路、石垣港へと向かった。
竹富島を訪れる観光客は、けっして少なくない。ただし宿泊施設がすくない分、石垣島はじめ周辺の離島から日帰りで立ち寄る人が大多数を占める。だから最初の定期便が来る前と、最後の定期便が発ってしまった後は、島本来の静かな時間が訪れる。そんな朝と夕の静かな竹富島を体験できるのは、島内滞在者だけの特権だ。
「星のや竹富島」では、水牛車散歩だけでなく、三線教室やミンサー織り体験、民具造り体験といった体験プログラムも用意されており、さらには西表島など周辺の離島へのアクティブなツアーに参加することもできる。どうせなら連泊して、ゆったり滞在して日頃の疲れを癒やすとともに、沖縄・八重山の文化の風に存分に浸ってみたいものだ。
【星のや竹富島】
沖縄県八重山郡竹富町竹富
電話/0570-073-066(星のや総合予約)
http://hoshinoyataketomijima.com/
すぐ隣にある小浜島には、「星野リゾート リゾナーレ小浜島」があり、こちらも優雅で魅力的な島リゾートだ。八重山の島巡りを兼ねたツアーも用意されている。
※ 星野リゾート 沖縄離島の旅 「星のや」&「リゾナーレ」に泊まる – JALパック
取材・文/編集部
※取材は星野リゾート主催のプレスツアー参加を通して行いました。