狙うは一攫千金！ 春の到来を告げるアラスカ公営ギャンブル「ネナナ・アイスクラシック」とは

文・写真／大野絵里佳（アメリカ・アラスカ在住ライター）

アラスカのほぼ中央に位置する町ネナナ（Nenana）。人口400人に満たないこの小さな町が、年に一度アラスカ中の人々から注目されるイベントがある。「ネナナ・アイスクラシック（Nenana Ice Classic）」は、凍結した川の解氷時間を賭けるアラスカ州公営のギャンブルだ。

アメリカで最も古いギャンブルイベントの一つであるネナナ・アイスクラシックが始まったのは1917年。アラスカ鉄道のエンジニア達が、冬に凍結した川が溶けて再び流れ出す時はいつか、と賭けたことに由来する。

ネナナの町のすぐ側を流れるこのタナナ川（Tanana）は、カナダとアラスカを横断するユーコン川（Yukon）の支流で、冬は歩いて対岸へ渡れるほど完全に凍結する。３月の第１日曜日になると、半年以上凍っていたこの川の上にトライポッドと呼ばれる大きな三脚が設置される。そこからロープを引き、川岸の時計と結び付け、春に氷が解け川が流れ始めると、そのロープが引っ張られて時計が止まる仕組みになっているのだ。

川が流れだすその時が、春の訪れた時。
単なる川の解氷と言ってしまえばそれまでだが、長い冬を過ごすアラスカの人々にとって春は特別な季節だ。

特に厳冬期にはマイナス50度にも達するこのエリアでは、川の解氷は冬の終わりを意味する。季節に左右されやすいアラスカの生活において、注目せざるを得ないイベントなのだろう。この時期になると、「今年のブレイクアップ（解氷）はいつだろうね」という会話が町のあちこちで聞こえてくる。

アラスカの人々が楽しみにしているこのイベントだが、参加は18歳以上であればどこに住んでいても誰でも可能だ。参加方法は２月中頃にアラスカ全土で販売される１枚2.5ドルのチケットを購入し、そこに三脚が倒れるだろう予想日時を記入し応募する。川の解氷時間を予想する、という至ってシンプルなものだが、その年の氷の厚さや気温、降雪量なども考慮しつつ、何時何分まで記入しなければならないのでこれが意外と難しい。例年、解氷は４月中旬から５月中旬のどこかで起きていて、応募の締め切りは毎年４月５日となっている。

賞金は複数名が同じ解氷日時に賭けていた場合は分配、また誰も解氷時間を当てられなかった場合は、最もその時間に近い対象者が賞金を得ることができる。その年の参加口数によって賞金額は異なるが、昨年は約2,750万円（233,591ドル）、そして過去最高の賞金額はなんと約4,200万円（363,627ドル）と当たればでかい。アラスカのゴールドラッシュの時代は過ぎ去ったが、今も一攫千金を夢みる人々にとってロマン溢れるイベントに違いないだろう。

参加は旅行者を含め誰でも可能だが、チケットの購入はアラスカ州内に限られている。過去には日本人旅行者も当選したことがあるそうなので、この時期にアラスカを訪れた際はぜひ参加していただきたい。販売所で配布されているパンフレットには、過去の解氷日時が記載されているので参考にできる。また、公式サイトには過去の氷厚の測定記録が掲載されているので比較する指標となるだろう。

同サイトでは、ライブ中継を行っているので川の様子を確認することができる。運が良ければ、解氷の時を画面越しに見ることができるかもしれない。今まで微動だにしなかった川面にヒビが入り、あっという間に大きな氷の塊となって次々と流れて行く様子はとてもダイナミックで、賭けに参加しなくとも見応えありだ。

仲間内だけで始まった小さな賭け事が、今年で106回目を迎えるアラスカの伝統行事の一つとなっている。年々、解氷日が早まっているという指摘もあり、気候変動の観点からも注目されているが、なんと言ってもこのイベントの一番の魅力は長く厳しいアラスカの冬の終わりを告げる、「春の到来」を実感できることにあるだろう。

ネナナ・アイスクラシック公式サイト（英語）：https://www.nenanaakiceclassic.com/　

文・写真／大野絵里佳（アメリカ・アラスカ在住ライター）
2019年よりアメリカ・アラスカ州在住。猫と犬と一緒に、のんきでワイルドな日々を過ごしています。海外書き人クラブ会員（https://www.kaigaikakibito.com/）