文・写真/小川聖市(海外書き人クラブ/台湾在住ライター)」
2020年に入り、1月の総統選挙、7月30日の李登輝元総統の逝去など、日本でも話題に上ることが多くなった台湾の政界。政界を彩る政治家たちには様々な愛称があり、本人を的確に描写したものや、中には揶揄した感じのものもあり、興味深い。今後、注目を集めそうな人物を中心に紹介していきたい。
蔡英文・総統(国家元首に相当)は「激辛台湾娘」!
総統は、日本の内閣に相当する行政院の正副院長の任命権、条約の締結、軍の統帥権、法律の公布などの国家形成の根幹に関わる部分で強い権限があり、国家元首に相当する位置づけにあるのが蔡英文総統だ。
1月11日の総統選挙で過去最高の817万231票で再選。5月20日より二期目。新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込んでいることが高く評価され、5月26日の報道で、71.2%(https://news.cts.com.tw/cts/politics/202005/202005262001713.html)と高い支持率を保っている。
「小英(シャオイン)」の「小」は、子供の名前の前につけて使うことが多く、日本語だと「英ちゃん」という感じ。「小英總統(『英ちゃん総統』)」と呼ばれることも多い。
「辣台妹(ラータイメイ)」は、「辣」が「辛い」、「台妹」が「台湾人女性」だが、翻訳は難しく、「激辛で言うべきことはしっかり言う台湾娘」といった感じ。産経新聞の電子版(https://www.sankei.com/world/news/200111/wor2001110054-n1.html)では「唐辛子娘」と記され、台湾でも報道された(https://www.nownews.com/news/20200113/3881992/)ほどだが、こちらは公式LINEのメニュー画面にある唐辛子マークが由来と見られる。
こう呼ばれるようになったきっかけは、2019年1月に中国の一国二制度の呼びかけに対し、蔡英文総統が毅然とした態度で拒否したことから。この姿勢は今も変わらず、8月9日には日本の森喜朗元首相を代表とする故李登輝元総統の弔問団、アメリカのアザー保健福祉長官、8月30日にはチェコのビストルチル上院議長ら代表団89人の訪問を受け入れるなど、外交で中国に対し強気の姿勢を見せる「辣台妹」ぶりだった。
蘇貞昌・行政院院長(総理大臣)は「電火球」(笑)
行政院は日本の内閣に相当し、院長は内閣総理大臣に相当する。正副院長の任命は総統が行うが、蔡英文総統の任命を受け、2019年1月11日より院長を務めるのが蘇貞昌氏だ。
2020年1月の選挙期間中は、民進党の大型集会で現在の民主的な社会がどのような過程を経て実現したのかを若い世代に語り継ぐ役割を担った。
過去には台北縣(今の新北市)縣長、屏東縣縣長、陳水扁総統時代にも行政院院長を務めるなど、実績も経験も豊富な政治家の一人。
「電火球」は「電球」の意味だが、その由来は外見から。本人は、「オレのは人々を代わりに照らすんだ」(https://theme.udn.com/theme/story/6554/221831)と積極的に受け入れている模様。
賴品妤・立法委員(国会議員)はコスプレイヤー「總一」
2014年のひまわり学生運動で、運動を牽引する役割を担ってから名前が知られるようになり、政界進出のきっかけとなった。2016年に当選した新人立法委員の事務所の助手を務めた後、2020年の立法委員選挙では民進党の公認候補として立候補し、当選。当選した全立法委員中、最年少の27歳(当時)だった。
一方で、コスプレイヤーとしても名前が知られ(https://www.facebook.com/SouichiCosplay)、「總一(https://worldcosplay.net/member/93016)」は、コスプレイヤーネームから。選挙活動中も、応援に駆けつけた蔡英文総統の横で「新世紀エヴァンゲリオン」の「惣流・アスカ・ラングレー」のコスプレを披露し(https://www.facebook.com/LaiPinYuSouichi/photos/a.102839641116656/172877760779510) 、気合が入ったところを見せた。
ひまわり学生運動から始まり、抗議活動で逮捕・起訴される(その後の裁判で無罪が確定)などの経験に加え、選挙活動中のライバル陣営の口撃に涙をにじませながら最後まで耐え抜き、当選を勝ち取った精神力と執念の強さは同世代の人たちの追随を許さず、民進党の公認もうなずけるものだった。
「IQ180の天才IT担当大臣」として話題の唐鳳・政務委員の「オードリー」は、なんと日本語の読みから!
政務委員は、行政院の各部門(日本で言う省庁)の横のつながりを強化し、縦割り行政の弊害を取り除くのが主な職務で、日本の「無任所大臣」に相当する。
2016年10月1日から就任した唐鳳・政務委員は、今年に入り、マスク在庫管理マップのアプリ開発(https://kiang.github.io/pharmacies/)、東京都の新型コロナウイルス対策のサイトのプルリクエスト送信(https://github.com/tokyo-metropolitan-gov/covid19/pull/827)で注目を集めたが、デジタル技術を用いて公務体系の課題を解決し、政府と民間における科学技術の強化と連携を図っていく役割を担っている。
24歳の時、名前を「唐宗漢」から「唐鳳」に変え、トランスジェンダーとなる。同時に、英語名も「Audrey(オードリー)」と変えたが、その理由は男女どちらにも使える名前であり、発音が日本語の「おおとり」に似ていると日本人の友達に教えてもらったことに加え、漢字の「鳳」は名前でも使われていることから選んだという。
唐鳳氏の最大の魅力は、幼少期からの豊富な読書量と学習能力の高さに加え、過去にアップルの顧問を務めた高度なデジタル技術で、ありとあらゆる壁を乗り越えてきた軽快さだろう。
政務委員就任で、性別(トランスジェンダー)、学歴(中学未卒)、年齢(就任当時35歳は最年少)、ハッカー(ひまわり学生運動時、ハッカーチームに参加)といった世間でマイナスとされる要素を乗り越えたのは記憶に新しい。
必要だと思ったものは、貪欲に取り入れようとする蔡英文・総統と今の政府の象徴的存在でもあるが、日本では注目を集めれば集めるほど社会の根っこにある様々な問題点、特にデジタル化の分野での遅れを際立たせ、あぶり出す存在とも言える。
【参考】
ELLE ON LINE:https://www.elle.com/jp/culture/career/a32819556/taiwan-the-youngest-it-minister-audrey-tang-new-leader-200615/
東洋経済 ON LINE:https://toyokeizai.net/articles/-/362226
facebookアーカイブ:https://web.archive.org/web/20161116094733/https://www.facebook.com/audreyt.org/posts/10154662700674928
社會創新實驗中心(唐鳳・政務委員が毎週水曜日に滞在しているところ):
https://silab.sme.gov.tw/home
文・写真/小川聖市(台湾在住ライター)
台湾の野球を中心に取材、テレビ中継の情報提供、チャイニーズタイペイ代表の戦力分析を書くなどを経て、2010年8月より台湾在住。その後、教育、学生スポーツ、サブカルチャー事情の取材も行うようになり、現在に至る。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com)。