今や江戸時代絵画を代表する存在となった伊藤若冲。その異才ぶりを伝える、知られざる逸品が拓版画です。モダンなセンスが光る本作が如何なるものかをご紹介します。

伊藤若冲『玄圃瑤華(げんぽようか)』

一帖 (48図)、紙本拓版(そほんたくはん)、各28.2×17.8cm、明和(めいわ)5年(1768)。タイトルにある「玄圃」は仙人の居場所、「瑤華」は玉のように美しい花の意。まさに若冲にとっての理想郷が描き出されている作品。

日本の版画史の中でも特筆すべき美しさを誇る若冲による拓版画

代表作にして国宝となった『動植綵絵(どうしょくさいえ) 』を筆頭に、空前絶後の傑作を生み出し続けた伊藤若冲。今や、数多いる日本美術史上の絵師たちの中でも、最も高い人気を誇る存在であることに異議を唱える人はいないだろう。

彼がこれほどまでに高い人気を博したのは、その絢爛たる彩色と超絶技巧とも呼ばれる緻密でリアルな描写、さらには奇想天外にして計算し尽くされた構図など、他の絵師たちにはない独自の世界観に裏打ちされた作品を数多く描いたからに他ならない。さらに若冲の凄さを物語るのが、着色画や水墨画という伝統的な絵画技法に飽き足らず、様々なジャンルから影響を受けて新たな手法にトライし続けた点にある。

斬新で独自の技法

そのひとつが西陣織の下絵にヒントを得たモザイク画とも呼ばれる「桝目(ますめ)描き」であり、もうひとつが中国発祥で石摺(いしず)りと称される異色の技法を駆使した、ここに紹介する「拓版画」である。

これは下絵を裏返して版木に貼り付け絵柄を陽刻する通常の版画とは異なり、下絵をそのまま版木に当てて絵柄が凹面となるように陰刻するもの。そのようにして彫り終えた版面に紙を押し付け、凹んだ部分以外に表から墨を塗り、陰刻部分が白く残って黒い絵柄が浮かび上がるように仕上げる技法だ。タンポを用いず、墨を筆で直接塗るので墨色が美しい漆黒となって現れ、白と黒の明確な対比が見るものに強い印象を与える版画となる。石碑などから拓本を取る手法に似ていることから「拓版画」と呼ばれるようになった。

若冲は他では見られないこの技法を駆使して、ここに紹介する一帖48図からなる『玄圃瑤華』や、淀川下りの優美な情景を描写した長大な画巻(がかん)『乗興舟(じょうきょうしゅう)』(京都国立博物館蔵)などのモダンで斬新な版画を手がけたのだった。

驚くべきは自身で下絵を描くことはもちろんのこと、どうやら版木の彫刻さえも自ら手がけていた可能性が指摘されている。

さらには、これらの斬新な技法を用いた「拓版画」を、あの『動植綵絵』30幅の制作と並行して行なっていたという事実である。若冲恐るべし。

「薊(あざみ)」
薊には揚羽(あげは)が寄り添う。のたうつような茎の線が妖し気。
「夾竹桃(きょうちくとう)」
本図に描かれる螽斯(きりぎりす)の1匹は逆立ち中。若冲の慈愛に満ちた描写。
「水葵(みずあおい)」
宙空を浮かぶように泳ぐ亀と、虫喰いが印象的な水葵の葉。

後世にも多大な影響。坂井抱一も自作に取り入れた

「未草(ひつじぐさ)」
未草はスイレン科の多年草。記されているのは親交のあった相国寺(しょうこくじ)の大典禅師(だいてんぜんじ)の漢詩。

若冲が53歳の時に手がけたモダンアートとも呼ぶべき『玄圃瑤華』は、後の作家たちにも大いなる刺激を与えたことで知られる。

そのひとりが18世紀末から19世紀の江戸で活躍した画家・酒井抱一(さかいほういつ)である。譜代大名家出身の抱一は多芸多趣味の雅人として知られ、絵画のみならず俳諧にも精通。名だたる文人との交流で中国の石摺りに範を得た若冲の「拓版画」作品に出会ったようだ。

彼は多様な絵画様式を用いた72図からなる画帖『絵手鑑』の中で、『玄圃瑤華』より11図を取って作品を制作。モノクロの世界から一転、洒脱な着色画として新たな世界観を構築することに成功した。

『絵手鑑』のうち「蓮池に蛙図(はすいけにかえるず)」
一帖72図のうち、絹本着色、25.1×19.9cm、江戸時代(19世紀)。本作の構図やモチーフは上の「未草」とほぼ同様だが、若冲お得意の葉の虫喰い跡は採用していない。抱一と若冲の美意識の差異が歴然で興味深い。静嘉堂文庫美術館蔵

「サライ美術館」×「東京国立博物館」限定通信販売

用紙:DEEP波光 出力:プリモアート(ハイクラス)A4×5枚 額:木製・サイズ409mm×31mm・背面に壁掛け用ループ2個付き・台紙に「東京国立博物館」公式ロゴプレート付き ※こちらの商品には認定証は付きません。

黒という無限の広がりの中に、動植物が光り輝くようにちりばめられた伊藤若冲の瀟洒な作品『玄圃瑤華(げんぽようか)』。全48図の絵柄の中から『サライ』が趣の異なる5作品を選び抜き、その複製画をセットにしてお届けする。

選んだ作品はどれも植物とともに生物が描かれた絵柄で、生きとし生けるもの全てを慈しんだ若冲の想いが伝わってくる。

製作を手がけるのは、146年の歴史を誇る「大日本印刷」(DNP)。ご注文を受けるごとに同社の高度な印刷技術、DNP「高精彩出力技術プリモアート」を駆使して印刷し、専用の額縁を添えてお届けする。

印刷する用紙は、温かみのある白色で、なめらかな風合いが特徴の「DEEP波光」。発色が良く、絵画などの高品質な複製に適した質感豊かな紙だ。

この企画で見逃せないのは、原本の『玄圃瑤華』とまったく同じサイズ(縦282×横178mm)に仕上げている点。原画の存在感をよりリアルに体感できる。

また、DNPの専門技術者が色調や表現の繊細さを高めた上で、額に入れたとき白地が出るなどの異和感がないように、画像処理を丁寧に施している点も特筆に値する。こうしてでき上がった高精細な複製画を、さらに東京国立博物館の監修を経た上でお届けする。

モダンな絵柄は、和洋どちらの空間にも合う。未草(ひつじぐさ)の傍らを泳ぐ蛙の絵は春から夏、枝垂柳(しだれやなぎ)にとまる蝉の絵は夏から秋、と季節の移ろいに合わせて絵柄を替えて楽しむのも一興だ。そのときどきの気分で好みの作品に着替えさせ、ご堪能いただきたい。若冲ファンにとってはたまらないマイギャラリーとなるはずだ。

東京国立博物館監修「原寸」高精細複製画『玄圃瑤華』伊藤若冲5点セット+専用額1枚

440,000円(消費税込み)

出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

 

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