1974年に『ビッグコミックオリジナル』(小学館)が月2回刊の漫画誌として創刊されて半世紀を迎えた。その歩みを2回にわたり繙(ひもと)く。

1972年、『ビッグコミック』増刊号として始まり1974年より月2回刊に。創刊号(写真)の主な執筆陣はジョージ秋山をはじめ、水島新司、西岸良平、バロン吉元、小島功など。

『ビッグコミックオリジナル』が創刊された時代と、同誌が“オリジナル”たるゆえんをマンガ・コラムニストの夏目房之介さんはこう振り返る。

「『ビッグコミック』(1968年創刊・小学館)の弟分として、少し下の世代の読者を対象に創刊されましたが、大学を卒業し会社勤めを始めた当時の私は、両誌を明確に区別することなく毎号手にしていました。『オリジナル』の誌面は『ビッグ』が開拓した“中間(娯楽)小説として読める漫画”の衣鉢を継ぐもので、手塚治虫以降のストーリー漫画と劇画を合体させたコンセプトは衝撃的でした。一方で、そうした路線を受け継ぎながら、大学生や社会人になっても漫画を卒業しなくなった読者集団の世代感覚に照準を合わせた『オリジナル』の先見性は見事に的中。当初は『ビッグ』の下の世代、大学生あたりがターゲットでしたが、『ビッグ』の読者層も取り込んで急成長を果たします」
 
35万部の増刊号でスタートし、2年後には60万部を突破。『あぶさん』『浮浪雲(はぐれぐも)』『三丁目の夕日』の三大看板連載も揃い、30代の社会人を核に読者層を拡大していく。

看板作品が長寿連載となることが多いのも同誌の特徴で、歳月とともに読者の年齢層もじわじわと上昇。シニアになっても漫画を読み続ける現代につながる市場拡大の歴史を、『ビッグコミック』とともに築き上げたのが同誌だ。

夏目さんが同誌の歴史で最も注目するのも、創刊時からの長寿連載となった前述の3作だ。

「なかでも『浮浪雲』は、1960年代後半まで盛んだった学生運動の挫折を経て、会社や家庭に収まった世代の気分を掬いあげる絶妙な時代感覚に裏打ちされていました。“牙を隠した元若者”に燻ぶる体制への違和感やアウトサイダー的な生き方への憧憬を、これほど見事にとらえた作品はなかった」

『浮浪雲(はぐれぐも)』。江戸時代後期、女性ものの着物を羽織り、前髪を束ねた奇妙な風体の男がいた。問屋場の頭だが、元武家の剣士でもあった。天衣無縫な男の生き方が共感を呼んだ。(C)ジョージ秋山

1970年頃を境に、社会全体が経済成長一本槍だった価値観から、個々人なりの多様な生き方が問われる時代に変わっていく。青年誌の中には過激なアンチヒーローも登場し、アナーキーなムードが先鋭的な若者の支持を得てもいた。夏目さんが感慨深く語る。

「そうした青年誌群に比べ、『オリジナル』ははるかに大人でした。ふだんは酒浸りで脚光を浴びにくい脇役でしかなかった代打専門の『あぶさん』が一躍、等身大の共感を集めるヒーローとして描かれたのも、バラ色の人生や夢物語にはない苦みのある“大人の味わい”から。必ずしもスポットライトが当たらない脇役の人生にも光を当てた、同誌の人情もののひな形をつくった作品でもあります」

創刊して5年後、のちに映画化もされ『男はつらいよ』とともに邦画界を代表するシリーズとなる『釣りバカ日誌』の連載が始まる。

『釣りバカ日誌』。大手建設会社に勤めるダメ社員・浜崎伝助が上司に誘われ釣りの虜に。鈴木社長との掛け合い、会社員生活の泣き笑いがギャグとペーソスを交えて描かれる。(C)やまさき十三/北見けんいち


「会社員の喜劇を漫画で描く先駆けとなった作品。作者の人柄そのままの長閑でほのぼのとした世界は安定感が抜群です」(夏目さん)

半世紀にわたり続く今号の別冊付録『三丁目の夕日』の長寿の秘密については【『ビッグコミックオリジナル』連載50年! 昭和30年代の風物を描き続ける『三丁目の夕日』の世界(https://serai.jp/news/1188449)】に譲りたい。

解説 夏目房之介(なつめふさのすけ)さん
(マンガ・コラムニスト、73歳)

1950年、東京生まれ。青山学院大学卒業。出版社勤務を経て、漫画、漫画評論、エッセイなど様々な分野で活躍。著書に『マンガに人生を学んで何が悪い?』『手塚治虫の冒険』など。1999年、漫画批評の業績に対し手塚治虫文化賞特別賞受賞。

取材・文/山田英生

※この記事は『サライ』本誌2024年7月号より転載しました。

『サライ』2024年7月号は別冊付録「サライ×ビッグコミックオリジナル 特別編集
『三丁目の夕日』夏の思い出編」付き。

 

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