取材・文/ふじのあやこ
近いようでどこか遠い、娘と家族との距離感。小さい頃から一緒に過ごす中で、娘たちは親に対してどのような感情を持ち、接していたのか。本連載では娘目線で家族の時間を振り返ってもらい、関係性の変化を探っていきます。
「あの1枚の写真から父の、家族の優しさが伝わりました」と語るのは、愛さん(仮名・42歳)。彼女は現在、神奈川県で小学生になる子供を育てながら、飲食店で時短勤務をする兼業主婦です。上部がふんわりとセットされたショートヘアに、化粧気はないものの、きめ細かいきれいな肌が目を引きます。丁寧な言葉遣いでゆっくりと話すところから、優しそうな雰囲気を感じます。
幼少期からぽっちゃり体型。その体型は思春期にはいじめの対象に
愛さんは長野県出身で、両親と2歳上に姉のいる4人家族。父親はホテル勤務でセールスや営業の仕事をしており、母親は専業主婦。母親の趣味は料理で、その影響を受けて、作ることより食べることが大好きだったと言います。
「私は今でこそ普通体型なんですけど、小さい頃からずっと太っていたんですよ。母親はお菓子作りが大好きで週に1回は必ずクッキーや、ケーキを作ってくれていました。私と姉はそれを喜んで食べていて、体重を気にするようになった時にはすでに太っていましたね(苦笑)。小学生の時の組体操で、私よりも身長が高いのに体重のせいで自分が下で支えないといけなくて、すごく恥ずかしかった記憶が残っています……」
家族で父親だけスマートだったそうで、そんな父は2人娘をどうにか痩せさせようと奮闘。よく父親と姉妹の3人で近所のプールに通ったり、ウォーキングをしていたと語ります。
「近所にスイミングスクールがあり、週末は1回の金額で使用できたんですよ。そこによく泳ぎに行っていました。ビート板を手に持って、背中には発砲スチロールの浮くもの(スイムヘルパー)を付けてひたすらバタ足をやっていました。でも、全然痩せないんですよね。家に帰ったら母親のおいしい食事が待っているんですから。結局働き出すまで普通体型にはなれませんでしたね(苦笑)」
優しそうで明るい雰囲気を感じる愛さんですが、中学生活は暗かったそう。その理由はいじめられていたからだと言います。
「小さい頃から身長が高くて、今でこそ普通より少し大きいくらいなんですが、成長が早くて中学に入った時にはすでに160センチ弱ぐらいあったんです。そして、太っていた。あだ名が『ビッグ』だったんですよ……。そのあだ名は確実に悪意があるものだと感じていたのに、内向的な性格から反抗できずにニコニコしているしかなくて。そしたらその笑顔が気に入らなかったのか、クラスの女子のボス的な子に目をつけられて、直接的ないじめは受けていないんですが、聞こえるように悪口を言われたり、体育で2人組にならないといけない時に誰も組んでくれなかったり……。今思い出しても辛い過去ですね」
母親の影響でパティシエに。地元で就職して、ずっとここにいるつもりだった
それでも愛さんは学校を1日も休まず。三者面談で先生からある忠告をされた母親からいじめについて聞かれた時も認めなかったそう。親に相談しなかった理由を聞くと
「中学2年の三者面談の時に担任の男の先生が母親に『いつも学校では寂しそうです』と言ったんですよ。先生的にいじめられている形跡は見えないし、いつも一人ぼっちですとは言いにくかったから、そういう表現になったのかなとは思いますが、微妙な表現ですよね……。それを聞いた母親は2人きりになった時に『学校が辛いの?』と聞いてくれたんです。でもそこで『楽しい』と答えてしまったんですよね。なぜかって聞かれると、やっぱり1番は親に心配をかけたくなかったからですかね。幸いにも無視はあったけど、教科書を隠されたり、叩かれたりなどはなかったので。それに1日でも休んでしまったら気持ちが切れちゃって、学校に行けなくなるんじゃないかって怖さもありましたね。でも、いじめは3年のクラス替えで友人にも恵まれて解消したので。半年ほどの我慢でした」
その後高校生活でも友人に恵まれ、母親の影響から、地元の製菓の専門学校に進学。そして、地元のケーキ屋さんでパティシエとして働き出します。
「働き出してからスルスル痩せていきましたね。やっぱりお金を稼ぐことは大変で。職場は先輩と店長の3人で、時々店長の奥さんが手伝いに来てくれるようなアットホームな環境で人間関係も辛くなかったです。働いている時も実家から通っていました。都会に憧れはあったけど、不自由なぐらいの田舎ではなかったし、ずっと長野で生活をするつもりでした。
でも、25歳の時に初めて恋人ができるんですが、その人を追っかけて上京してしまって。そして慣れない職場で人間関係もうまくいかずにどん底の上京生活を送るハメになります。親には嘘をついて無理やりに上京したので、地元に帰りたくても帰れなかった。そんな時、父からの1枚の写真で救われたんです」
両親に伝えた上京の理由は真っ赤な嘘。嘘から始まった東京の生活は挫折ばかり……。地元に帰りたくなった気持ちを受け入れてくれたのは、父の遠回し過ぎる行動だった。【~その2~に続きます。】
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。