取材・文/ふじのあやこ
近いようでどこか遠い、娘と家族との距離感。小さい頃から一緒に過ごす中で、娘たちは親に対してどのような感情を持ち、接していたのか。本連載では娘目線で家族の時間を振り返ってもらい、関係性の変化を探っていきます。
「久しぶりに会った両親は昔より小さく見えました。会わせてくれた兄に感謝しています」と語るのは、加奈子さん(仮名・38歳)。彼女は現在、都内で結婚相談所のスタッフとして働いています。長い髪を後ろに一つに束ね、ジャケットを羽織った姿はしっかりした印象を受けます。話を聞いている間一度も姿勢を崩すことなく、こちらの会話に誠実に対応してくれていました。
家族仲は良好。中学3年の時にいじめられたことで家が唯一自分を出せる場になった
加奈子さんは島根県出身で、両親と1歳上に兄、5歳下に妹のいる5人家族。父親はサラリーマン、母親も近所のスーパーやドラックストアなどにパート勤務をしていたと言います。よく家族で出かけるなど家族仲は良く、兄妹仲も良かったそうです。
「父親は優しく、母親も『他人に迷惑をかけてはいけない』という口癖こそありましたが、基本自分たちがしたいことを尊重してくれるような親でした。週に1回は必ず家族で外食していました。順番に行きたいところをリクエストできる決まりになっていたんで自分の番が回ってくる週はウキウキしていました。兄は焼肉食べ放題、私は回転寿司といった感じで最後のほうには5~6か所の飲食店をローテーションするようになっていましたけどね。
兄妹の仲も兄が妹に優しくて、妹が兄より私に懐いていた感じです。兄とは年子なので小さい頃はよくケンカしましたが、私とケンカすると妹が私の味方につくので、それが嫌だったのか中学に上がる頃には兄妹ケンカもなくなりました」
家族との仲は良好でも、学校では居心地が悪かったそう。中学の時にいきなり仲が良かったグループから無視され、酷いいじめこそ受けないものの友人のいない寂しい学校生活だったと加奈子さんは語ります。
「本当にいきなり、学校に行ったら仲良しグループから無視されていたんです。無視はその子たちだけではなく、他の人たちからもでした。まるで自分はみんなから見えなくなったんじゃないかなって思うほど。その時は3年生の2学期だったんですが、卒業までの間ずっと1人でした。クラスの中では一人ぼっちなのは男子たちからも気づかれていたんですが、他クラスの子たちにはどうしても知られたくなくて、休み時間や下校はよく学年の校舎から遠い位置のトイレに隠れていました」
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