取材・文/柿川鮎子 写真/木村圭司
夏休みに家族旅行をした時、ホテルサービスをしている動物病院に犬を預けました。獣医さんも看護師さんも顔見知りだし、犬も慣れていて、ストレスなくお留守番をしてくれたようです。ホテルの帰りがけに、病院に貼ってあったポスターに、「秋の健康診断」という言葉を見つけました。
わが家では毎年春に、ワクチンの接種とノミとマダニ予防をする時に、血液検査を受けていますが、秋もやるべきなのでしょうか。ペットの健康診断についてひびき動物病院の院長岡田響先生にきいてみました。まず、ペットの定期検診はどの程度の頻度で受診するのがベストで、春と秋の健康診断では何が違うのでしょうか?
「まだ若い子ならば、定期健診は1年に1回程度でもいいのですが、犬も猫もミドル世代の5歳以上になったら、半年に一度、検診を受けるのが一番良いと思います。半年に一度は多いような気がするかもしれませんが、ペットはヒトよりも歳を取るのが早く、ヒトの1年は犬猫の4~5年分になるといわれます。ペットの半年に1回は、ヒトだと2年に1回、という時間です。
多くの飼い主さんは春に、狂犬病やワクチンの予防注射をしたり、ノミ・ダニの駆除や、ワンちゃんならばフィラリアの駆除をするでしょう。その時に血液検査を受ける人が多いと思います。
さらにその上で、半年たった秋にもう一度検診をするのがベストです。9月は動物愛護週間もあるので、それに合わせて、ペットのためになる病気の早期発見や予防をしてみてはいかがでしょうか」と、岡田先生。
■健康診断は何をするのか
具体的に、ひびき動物病院ではどんな健康診断をするのでしょうか?順番に先生の言葉で解説していただきます。
1)先生の問診
飼主さんが日ごろ気になっていることや、生活状況や普段の食事内容などを聞いていきます。「いつも耳をかくクセがある」とか、「吐きグセがある」、「舌を出してかわいい表情をしている」、「好き嫌いするけどお水はよく飲んでいる」など、ご家族が重要でないと思っていない内容の会話が、意外とあとでカギとなることも多いのです。
2)触診や視診
まずは体重を測りながら全身の状態を目で見て触って確認します。肥満状態なのか、脱水していたり、リンパ節が腫れていないかを触って確かめます。太ってしまう場合も、痩せてしまう場合も、体重は実際に数字をみないとみなさんあまり実感してない印象です。いつも一緒にいればあまり変化がわからないのかもしれませんね。しこりが無いかも、重要なポイントですね。しこりがあったら必ず検査を勧めます。それと高齢のペットは歯や眼に異常が出ることが多いので、必ずチェックが必要な場所です。
3)聴診
心臓の異常が無いか、心拍数、心雑音、不整脈など、音の異常が無いかを聞いて確かめます。また、呼吸の状態や数、音も異常が無いかどうか調べます。お腹の音もじっくり聞いて、消化管が正常に動いているか、変な音がしないかを確かめます。
4)便検査
検便では腸内細菌のバランスなどお腹の消化状態を知ることができます。寄生虫やある程度の病原菌の有無もチェックします。なるべく新鮮な便をチェックした方が情報量があります。
5)尿検査
尿の検査は腎臓病・尿路疾患・尿路結石や糖尿病などをチェックします。見た目は普通の尿であっても、検査するとサインが出ていることはよくあります。おしっこが少しクサい、量が増えた、とか泌尿器疾患の場合は一番先に尿に変化がでますので、他の検査よりも異常を見つけられることがあります。
尿検査は採尿が一番大変かもしれませんが、がんばってきれいな尿を液体でとっていただくと、得られる情報は多いです。体に注射針を刺して採尿する方法もありますが、健康診断の際は、来院時にまずは器などにとってもらい、新鮮な尿を見るところから実施しています。
6)血液検査
血液検査は5歳未満と5歳以上で、推奨メニューが分かれます。春の健康診断ではフィラリア薬の投与が問題なくできるか?が一番の目的になります。もしも春に何か問題があった場合は、解決していますか?見つかった問題については、再チェックしないといけません。
良くなっていない場合は、そのままにしないで、もう少し原因の追究をしてあげましょう。画像診断なども追加が必要かもしれませんね。
7)画像診断
画像診断ではレントゲン検査と超音波検査があります。レントゲン検査では、体を全体的なところからみて検査していきます。超音波検査では、もう少し部分的なアプローチで、異常がないかを検査していきます。
どちらの検査も横に寝かせたり、バンザイさせながら検査を進めますが、通常は痛みや苦痛を伴う検査ではありません。でも、放射線の管理の都合などで、これらの検査はおそらく見えないお部屋で実施することが多いことから、ご家族のかたはどうやっているのかあまり想像ができないかもしれませんね。
8)心電図検査と血圧測定
ヒトもペットも高齢化社会。特にチワワなど小型犬には心臓病が多いので、当院では心電図も健康診断のメニューに取り入れています。血圧の測定なども実施します。
■健康診断を受ける飼い主さんに3つのアドバイス
健康診断の内容と重要性を知って、ぜひ病気の早期発見のために、健康診断を受けてみたいと思います。最後に岡田先生から、健康診断を受ける飼い主さんへ、3つのアドバイスをいただきました。
【その1】
健康診断の時はヒトと同じように8~12時間の絶食が必要です。当日の朝はごはんをあげないようにしてください。これが一番大変!だという声が結構多いです。大変だと思いますけれど、終わったらおいしいご褒美が待ってますから、ちょっとだけ我慢ですね。
【その2】
気になる事や、何かよくやるクセ、などは全部教えてください。普段あまり気にしていないような事でも、病気に関係しているかもしれません。飼い主さんが「かわいい仕草かな?」と思っていたら、実はある特定の場所を気にしてやっていた行為だった、という事もよくあります。
【その3】
健康診断を受けて、分かったつもりになるけれど、その後はいつも通りになってしまって、また同じ繰り返し、という飼主さんもいらっしゃいます。結果を聞いただけで、満足してしまう飼い主さんも多いのです。せっかく健康診断を受けて、正しい道ややるべき事がわかったのに、やらないのはもったいないし、ペットの身体にとっても良いことではありません。
そんな飼い主さんであっても、健康診断により身体の異常がわかったら、その後の経過はどうなのか、継続的に定期健診をして、推移を見てくれます。ある時点で、納得して治療してくれるようになるため、結果的に健康な身体を取り戻すことができるようになります。
口のきけないペットですから、なるべく早めに病気を発見したり、予防したいもの。岡田先生のアドバイス通り、5歳以上になったら、半年に一度、春と秋の検診を習慣にします。今月は動物愛護週間にちなんで、各地で高齢ペットの表彰式なども行われます。わが家のペットも表彰式を目指して、いつまでも元気で長生きしてもらいたいものです。
取材協力/岡田響さん(ひびき動物病院院長)
神奈川県横浜市磯子区洋光台6丁目2−17 南洋光ビル1F
電話:045-832-0390
http://www.hibiki-ah.com/
文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。
写真/木村圭司
写真提供/ひびき動物病院