文/鈴木拓也

企業の「顧問」と聞いて、どんなイメージが思い浮かぶだろうか?

多くの方は、「官庁や大企業のOBで、時々会社にやってきては、社長や重役とゆったりと話をしている顔役的な存在」という漠然とした印象を持っているだろう。

確かに、そういう一面も顧問にはあるが、ニーズとして増えているのが、豊富な知識・経験をもったエキスパートとしての、いわゆる「実務顧問」という職業。今いる社員・役員の手に余る課題やプロジェクトの推進役を果たす頼もしい役割としての顧問が、にわかに脚光を浴びているのだ。

そんな実務顧問の世界を、書籍『あなたのキャリアをお金に変える! 「顧問」という新しい働き方』(集英社)で垣間見せてくれるのは、自身も顧問を本業とする齋藤利勝さんだ。

齋藤さんは、顧問歴6年。リクルートを経てソニーグループで務めたのち44歳で独立。前職のつながりで顧問の道を歩み、これまで140社もの顧問を歴任。現在も、約30社と顧問契約を結び、年収は会社員時代の数倍になっているという。

■実務顧問として求められているのはこんな人

本書では、実務顧問と言われてもピンとこない読者に向け、いくつかのケーススタディが記されている。例えば、フィットネス機器の製造・販売を生業とする企業が、欧米進出を計画したものの、社員の専門性が乏しくて進捗しないケース。そこで、白羽の矢が立ったのが、医療機器メーカーの元開発本部長で、今は顧問をしているAさん。彼は米機関FDAへの申請書作成やパートナー企業獲得の支援に尽力し、おかげで欧米進出がスムーズに運んだ。

ほかのケーススタディを見ても、業績低下のてこ入れや自社ノウハウ欠如の補完など、ピンポイントで業務支援しているパターンが多いようだ。人脈をたどって取引先を紹介するといった従来型の顧問とは、明らかに求められている内容が違うのがわかる。
齋藤さんによれば、企業の求める人材は「上場企業の役員層よりも、現場を経験している人」のほうが多いという。つまり、製造部の統括部長といった、たたき上げで定年(あるいはその少し前)までやってきた人にも、実務顧問の門戸が開かれているというわけだ。

■顧問市場の拡大で顧問派遣会社も増加

では、どうやってつてもない企業の顧問になれるのだろうか?
齋藤さんは、顧問派遣会社に登録するのが第一歩だという。
顧問市場が拡大したことで、派遣をサービスとする会社も急増。今では主要なところだけでも約20社もあり、本書にはそのうちの数社の概要がまとめられている。

本書でも紹介されている顧問派遣会社の1つ、エスプール社の「プロフェッショナル人材バンク」のホームページ

登録への入り口は、ホームページを見て気に入った派遣会社の受付フォームに、自身のプロフィールや経歴を入力するだけ。これで仮登録が完了する。正式な登録には、事後郵送されてくる書類への記入と、派遣会社の担当者との面談の手続きを踏む。あとは、担当者からの案件紹介のメールを待つだけだ。

■登録顧問の稼働率は5%という厳しい現実も

齋藤さんの調査では、顧問派遣会社に登録している人の数は7~8万人(1人で複数の会社に登録する人もいるので延べ人数)。
これに対し、顧問として企業に派遣されている人数は4千人いるかいないか。つまり5%くらいしか稼働していないことになる。
その理由を齋藤さんは、以下のように述べる。

「それは、過去のプライドから「私ぐらいのキャリアになれば登録しておけば、いつか仕事をもらえるだろう」と、高をくくって受け身になっている人があまりにも多いからです」(本書89pより引用)

これだと数多くの競争相手の中に埋もれてしまう。そうではなく、「顧問としての強みを自分でしっかりと分析し、なおかつそれをアピールすること」が大事だと、齋藤さんは力説する。そのためには、新たな資格を取得するとか、実績が増えたときなどに、登録情報はこまめにアップデートするのが肝心。なおかつ、検索されやすいキーワードをちりばめるなど、顧客企業から見れば顔となるプロフィールを充実させることが欠かせないという。これが「5%のハードル」を越えるカギとなる。

*  *  *

実は、齋藤さんが顧問を目指す人たちに求めているのは、「5%のハードル」を越えるだけではない。「相手先企業の社長と同じ目線で物事を考え、高い視野で解決策を導き出し、成果を出す」顧問、つまり「プロフェッショナル顧問」となることが、到達点だという。

このレベルまで来ると、派遣会社を介さず、企業から直接依頼を受け、額面どおりの報酬を得られるようになる。なおかつ、一層充実度の高い仕事に就け、顧問業の醍醐味を満喫できるとも。

そのために、齋藤さんは本書の後半を割いて、様々なアドバイスと対策を記している。

直接契約による顧問業の収入は、月2回程度の活動で20~50万円になるが、「お金、お金」とこだわるのではなく、「他利」の精神で、相手に尽くすことが、成功には何よりも大事だとも、齋藤さんは諭す。

いろいろ考え合わせると、一筋縄ではいかないのが顧問の世界のようだ。しかし、もしあなたが十分なキャリアを形成した上で定年に臨むなら、顧問としての働き方は検討に値するだろう。興味があれば、本書を一読されたい。

【今日の定年後に良い1冊】
『あなたのキャリアをお金に変える! 「顧問」という新しい働き方』

http://business.shueisha.co.jp/contents/1806_career/

(齋藤利勝著、本体1,500円+税、集英社)

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。

 

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