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安産の象徴となっている犬のお産は、本当に安産なのか?

取材・文/柿川鮎子

犬は人の身近にいる最も古い動物のひとつです。今から約1万年前、縄文時代早期の神奈川県夏島貝塚から、犬の骨が発見されています。きっと当時も、使役犬として狩猟の役に立っていたほか、人々の心を和ませるペットとして、いつも人の傍にいたことでしょう。

江戸時代になると、犬は安産の象徴となりました。現在でも妊娠5ヶ月目に入った妊婦さんが、最初の戌(いぬ)の日に腹帯を巻き、安産祈願の御参りをするという風習が残っています。

また、女性の結婚が決まると、両親は婚礼用品としてひな人形に「筥(はこ)犬」を備え、嫁入り先でも犬のようにたくさんの元気な子供が生まれるようにと願いました。

安産や出産の神様として犬が祭られています

ところで、安産の象徴となっている犬のお産ですが、実際のところはどうなのでしょうか。ホームドクターとしてペットの出産にも関わってきた『ひびき動物病院』(神奈川県横浜市)の院長・岡田響先生に聞いてみました。

ひびき動物病院院長の岡田響さん。

「犬が安産の象徴と言われるようになったのがいつ頃からか、はっきりしたことはわかりませんが、江戸時代でも、今のようにペットや愛玩犬として犬を飼育していた人は少なく、ほとんどが野良犬や放し飼いで、柴犬や和犬に代表される小型から中型の雑種ではなかったかと思われます。

これはあくまでも私個人の想像ですが……ヒトの妊娠期間よりもずっと早く外で勝手に増えるわけですから、比較的お産が軽い=安産という図式だったのかもしれません。

今では犬種も増えて、ジャパンケンネルクラブに登録されている2016年統計だけとってみても、133犬種もいますし、人の手によってさらに増え続けています。その結果、安産の犬種ばかりとは言えなくなっているとは思います」

なるほど、犬のお産と言っても、今では大型犬から小型犬まで犬種がいろいろいて、ひとくくりにして言うことは難しいのですね。

「特に最近の人気犬種でもあるフレンチブルドック、パグなど頭の短い短頭種や、チワワやポメラニアン、プードルのように頭の大きな超小型犬は、お産が重くなることがあり、難産の犬種です。帝王切開で生まれる子も多いですね。

逆にラブラドールやゴールデン・レトリバーなどは一度にたくさんの子犬を産みます。もちろん個体差はありますが、犬種によってある程度、出産のイメージを予想することは可能です」

また、今は高品質でカロリーの高いフードが普及しているため、お腹の中で子犬が大きく育ってしまい、難産になるケースも見られると岡田先生は言います。飼い主さんが「お腹の子犬のためにもたくさん食べさせた方が良い」と、母犬に美味しいご飯をせっせと与えすぎて、難産にさせてしまうようです。

「犬のお産は骨盤の大きさも判断基準になります。特に一頭だけしか胎児がいないような場合、大きく育ってしまうがために、骨盤を通れずに帝王切開になってしまうことがあります」

人工的に作出された犬種が難産になったり、栄養過多で難産にさせてしまうなど、現代の犬のお産事情には、人間が大きく関わっているのですね。

「犬の妊娠期間は60日から63日が標準で、最後の2週間で大きく育ちます。だいたい最後の一週間前にレントゲンで判断して、無理なく出産できるかどうか診断します。母体の健康だけでなく胎児の発育状態などにも配慮する必要がありますから、飼い犬の出産に関してはぜひホームドクターに相談して欲しいですね」

犬の出産はとても神聖で感動的ですが、一刻を争う事態になることも少なくないと岡田先生は言います。もし飼っているわんちゃんが出産するようなことになったら、犬は安産だからと軽く考えずに、獣医さんに相談しましょう。

【取材協力】
『ひびき動物病院』
神奈川県横浜市磯子区洋光台6丁目2−17 南洋光ビル1F
電話:045-832-0390
http://www.hibiki-ah.com/

文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

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