春奈さんの相談を受けた曽根さんのアドバイスは、「5000万円の金融資産を活用して、生命保険加入、不動産の購入、孫への贈与などの相続対策をしましょう」だった。そうすれば、相続税の節税になり、入院費用の補填になるだけでなく、子どもや孫にも喜ばれるというのだ。
「でも、父の警戒心が強く、私たちに節税対策を任せてくれる雰囲気はなく、自分の財産は死ぬまで渡さないと言いそうな気がします」と春奈さん。父親の性格から娘たちにもすべてをオープンにしたり、託そうという気持ちはなさそうだという。
そこで曽根さんは、生前対策はお父様の意思が必要になるため、この機会に、対策をしないと相続税がかかることを伝え、父親の老後をサポートするための対策をしたり、将来の財産管理も託してもらうよう、娘の立場で父親に話したほうがいいとアドバイスした。
「たしかに、老後のサポートをするためとして切り出せば、父の受け止め方も違うはずだと思いました。このアドバイスを踏まえて、父に話してみます。現状のままでは230万円の相続税がかかってくると伝えれば、父の考えも変わるかもしれませんしね」
* * *
最後に曽根さんはこうアドバイスする。
「相続税の生前対策には、本人の意思確認が不可欠です。警戒して財産を言いたがらない親には、本人の意思や気持ちを聞くことで安心してもらい、親を中心に老後のサポートをする気持ちを伝えるようにしましょう。相続税がかかる場合は、具体的な額を伝えることで危機感を持ってもらうようにするのも有効です。親への配慮を伝えることで、親子の距離を縮めて信頼関係を再構築してもらうことで、道が開けるのです。」
監修・曽根惠子さん
夢相続 代表。PHP研究所勤務後、不動産会社設立し、相続コーディネート業務を開始。1万3000件以上の相続相談に対処、感情面、経済面に即したオーダーメード相続を提案。『相続はふつうの家庭が一番もめる』(PHP研究所)、『相続に困ったら最初に読む本』(ダイヤモンド社)、『相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル』(幻冬舎MC)ほか著書多数。
取材・文/沢木文
イラスト/上田耀子