「あなたに子どもがいなくてよかった」
凛子さん夫婦は子どもを作らなかった。凛子さん自身は親になる自信がなく、夫の家系には遺伝性疾患があったからだ。母親から孫の催促をされたときに凛子さんはその事実を曲がったかたちで伝えてしまったという。
「子どもを作らないことは結婚前から2人で話し合っていました。義両親もそのことを知っていたので孫の催促はありませんでした。私の両親はそれを知らないから孫の催促が何度かあったんです。そのときに『私たち夫婦は子どもを作れない』と伝えました。詳しくは言いたくないと伝えると、両親はそれ以上聞いてきませんでした。私はあえて夫だとは言わなかった。両親が、“健康的に産んであげられなかった”と少しだけ後悔すればいいと思ってしまったんです。最低ですけど、両親との生活で心はすり減っていましたから。復讐だったのかもしれません」
そこから10年ほどは凛子さんと両親はつかず離れずの関係だったが、昨年に父親が亡くなったことで母親は精神的に弱ってしまい、定期的に連絡が来るようになっているという。凛子さんは見捨てることも力になってあげることもできないという葛藤を抱えている。
「感情を切り離せば、不自由なく育ててもらったので、母親を完全に切ることはできないんです。でも、心の底から優しくなれない。最近も『あなたに子どもがいたらお母さんのことなんて構ってくれなかっただろうから、よかったわ~』と言ってきたんです。なんて自己中な発言なんだろうって、もやもやしてしまいました」
「育ててもらった」と凛子さんは何度も口にするが、親には、子どもが経済的、身体的に自立できるまで生活を支える義務がある。そこに恩を感じる必要はないのだ。人は感情を切り離しては何かをするのはとても困難なこと。親子も1つの人間関係だと割り切る気持ちが必要だ。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。
