夕刊の配達のために教師への道を諦める

新聞奨学生の生活は過酷だ。朝3時に起き、4時から配達を開始するまで折込チラシのセットなどをする。5時半に配り終えて朝食をとり、8時に大学に向かう。15時までに授業を終わらせ、急いで宿舎に戻り16時から夕刊の配達を始める。

「当時、新聞を取っている家庭は多く、500軒くらいを回っていました。休みは月に1回もなく、大学と宿舎の往復をする毎日。おしゃれも遊びも関係ない大学時代ですよ。40℃近い高熱を出しても新聞は配る。新聞のインクで右手の親指はずっと真っ黒でした」

サークル活動や、友達との遊びなど“学生らしい”事は一切できない。新聞の配達サイクルに合わせて、4年間を過ごすのだ。

「夕刊の配達があるので、午後の授業が受けられない。学校の先生になりたかったのですが、教職課程を取ると授業数が多くなるので諦めました。雪の日に新聞の重さでバイクごと転倒し、ケガをしながら凍える指で配った時は辛かったですが、ここで挫けて地元に戻ると、あのいじめの余波を受け続ける人生になるのかと。そう思うと、今のほうがまだマシ。辞める人の多さを考えても、生半可な覚悟ではできない仕事だと思います」

強い精神力と意志、「地元に帰りたくない」という思いがあったから4年で卒業できたのだという。

「新聞奨学生をやっていた根性を買われて、一流企業にも入ることができた。僕のことを誰も知らない世界で、人生をスタートすることができた。それは本当に幸せなことですよ」

機械製造関連の会社の営業マンとして活躍し、東南アジア、東アジアに赴任して、政府高官と商談をまとめたこともあったという。

「会社は好きですし、楽しかったです。不満がない環境で働いていると、いい雰囲気になる。そこにどっぷり浸かってしまい、妻の気持ちに目を向けなかった」

和哉さんは40歳のときに、5歳年下の妻と結婚している。

「まず、僕は女性にモテない。いじめを受けてから、人に裸を晒すのが怖い。ただ、何を間違ったのか、40歳のときに5歳年下の近所のスナックの雇われママと関係を持ってしまい、押しかけられたんです。そのまま家に居座られてしまい、困っていると上司に相談したら、“普通の男は、女にありつけないものだ。そんなチャンスは滅多にないから、結婚してしまえ”と言われ、そんなもんかと入籍したのです」

地元と絶縁した和哉さんと、離婚歴がある妻は結婚式も新婚旅行もしなかった。妻は華やかな容姿をしていて情が濃く、見てくれも整っている。料理が上手で優しい女性で結婚生活は楽しかった。経理に明るい妻は事務職のパートとして働いており、結婚5年目には、家計管理のための給料の振り込み口座のキャッシュカードを渡した。

「金に堅実なのでいいだろうと渡したんです。僕は給料の半額をもらって小遣いにする。そんな環境だからラクでしたよ。妻に家庭を預けて、仕事に没頭したまま20年が経過していたんです」

【妻は寂しさから若い男にハマり、熟年離婚する……その2に続きます】

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。

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