2022年の離婚件数は17万9099組。うち、同居期間が20年以上の「熟年離婚」は3万8991組で全体の23.5%を占め、過去最高を記録しました(厚生労働省「人口動態統計」より)。離婚原因として急増しているのが「モラハラ(精神的虐待)」で、夫側の離婚原因の2位、妻側の3位に入っています。多くの夫婦は「コミュニケーション不足」で、お互いついつい「カチンとくる一言」を言ってしまって、相手を怒らせたり、モラハラに発展して、最悪の場合は離婚に至ってしまうのです。
これまでに約4万件の離婚相談を受けてきた夫婦問題研究家の岡野あつこさんの最新刊『なぜ「妻の一言」はカチンとくるのか? 夫婦関係を改善する「伝え方」教室』(講談社)では、「夫婦トラブルに効く、伝え方・コミュニケーションのコツ」がまとめられています。
「離婚するほどではないけど、最近夫婦関係のトラブルが増えた」という熟年カップルはもちろん、より夫婦関係を深めていきたい人も、本書を読んでお互いの話し方・伝え方を見直してみませんか。今回は、日常の連絡としている人も多いと思われるLINEの書き方など、すぐ取り入れられる改善策をご紹介します。
文/岡野あつこ
「モラハラ夫」が増えた理由
いま、熟年離婚がますます増加しています。熟年離婚とは20年以上同居した夫婦が離婚することですが、2022年にその年に離婚した夫婦の約23.5%と、戦後すぐの1947年に統計を開始してから、過去最高となってしまいました。離婚した夫婦のうち、4組に1組が熟年離婚というほどです。
私はこれまで約4万件の離婚相談を受けてきました。離婚相談というと、「夫が外に愛人をつくって家にお金を入れないから離婚したい」といったケースをイメージされる方が多いかもしれません。たしかに、かつての離婚相談はそういった「不貞行為や金銭トラブルなど、夫もしくは妻が問題行動を取っている」ケースが大半でした。しかし、最近そういう「夫の不倫・問題行動」に由来する相談は減っています。代わりに増えているのが「モラルハラスメント(モラハラ)」、および「価値観の相違」の相談です。
「モラハラ」とは一言で言うと「道徳・倫理に反する嫌がらせ行為」です。たとえば専業主婦の妻に対して「家事のやり方がおかしい」と難癖をつけ、「だからお前は人としてダメなんだ」といった人格攻撃を繰り返す、などの行為が「モラハラ」とされます。こうした「モラハラ」は三船美佳さんと高橋ジョージさんの離婚騒動がきっかけとなり、日本でも広く知られるようになりました。家族に暴力を振るう「ドメスティック・バイオレンス(DV)」に対して、暴力を振るうことはないが、相手の人格を否定したり、侮辱したりして精神的に傷を負わせる点に特徴があります。DVの問題点について広く認知されるようになり、逮捕のリスクや裁判を恐れて、身体的暴力を自制する人が増えました。代わりにパートナーへの怒りを、言葉や態度で表明する人が増えた結果、「モラハラ」が急増しています。
経験上、「モラハラ」をするのは男性のほうが多いようですが、彼ら「モラハラ夫」は、「妻が間違ったことを言っている・やっている。自分は間違いを指摘しているだけだ」とよく言うものです。このように、一見「これは暴力・ハラスメントではない」という言い訳が成り立つのが「モラハラ」の特徴であり、厄介なところです。「モラハラ」を受けている側が、ずっと批判されているうちに、「本当に自分が悪いのかもしれない」と、「洗脳」されることもあります。ただ、先述の通り「モラハラ」の概念が広まったことで、「あれ? これってモラハラかもしれない」と気づき、相談に来る人が増えているのです。
「カチンとくるLINE」の理由
LINEは便利ですが、書き方に気をつけないと、トラブルの原因にもなります。夫婦関係の改善プログラムの一環で、メールやLINEの書き方を指導していますが、「カチンとくる書き方」にしばしば遭遇します。相手から見ると不快なメッセージになっているのに、自分では気づいていないことも多いようです。
次に示すのは、私が実際に添削したLINEメッセージの例です。
相談者は50代の女性、夫とは別居中で、娘がいます。夫は家に生活費を必要最低限しか入れていない状態です。娘が留学するので、入学費用を振り込んでもらうため、別居中の夫にLINEを送りたいと相談があり、こんな文面が送られてきました(名前は仮名)。
「加奈がイギリスに留学するにあたり、入学金、授業料などを振り込む必要があります」
「○月○日の〆切りまでに振り込まなければ取り消しとなります。ネット振り込みには対応してなく、窓口での振り込みとのことです」
「以前、加奈が高校に入学するときは、一旦私の口座に振り込みをしていただいてから私が学校に振り込んだ経緯があったので、今回お忙しい浩一郎さんに銀行の窓口に並んでいただくのも気が引けるのでご相談しています」
以降は金額の内訳の説明が長々と続きます。
みなさんはどう思われるでしょうか。ぱっと見た印象として、夫婦間のやり取りにしては、少し堅苦しい気がします。しかも、どことなく高飛車な感じさえ漂っています。まず書き出しの、「入学金、授業料などを振り込む必要があります」という書き方が問題です。ビジネスメールならこれでもいいでしょうが、夫婦のメッセージにしては少々事務的すぎて、相手への配慮や、気遣いに欠ける印象があります。次に、「お忙しい浩一郎さんに銀行の窓口に並んでいただくのも気が引けるので」の部分も、ちょっと嫌味な書き方です。この夫婦はすでに別居していて、実は夫は愛人と暮らしています。そのため、「お忙しい浩一郎さんに」と書くと、「(愛人と遊ぶのに)お忙しい浩一郎さんに」という嫌味だと取られかねないのです。夫が読めば気分を悪くするでしょう。もちろん、ケンカするつもりなら、この書き方でいいのですが、この場合は何とか夫の機嫌をそこねず、娘の留学費用を振り込んでもらうのが目的です。そのために送るLINEの文面なので、嫌味に取られかねない表現は避けるのが無難でしょう。
「嫌味な書き方」にならない「ちょっとしたコツ」
その後、夫が入学費用を振り込んでくれた後で、妻が送ろうとしたお礼のLINEも、これはカチンとくるだろうという書き方でした。
「こんなお金をすぐに用意できるなんて、実は貯めてもってたってことですよね。ありがとうございます」
海外留学ですから、学費もそれなりの金額です。大金を振り込んでもらったのは間違いないのですが、「こんなお金」という言い方はいささか嫌味に聞こえます。「こういうお金はポンと払えるのに、なぜもっと生活費を入れてくれないんですか」という「嫌味」が、読みようによっては、行間に漂ってきそうです。本人はあくまで、「約束通りお金を振り込んでくれてありがとう」とだけ言いたいのですが、こんな文面を送ると逆効果になってしまいかねません。
結局、私はどうアドバイスしたでしょう。まず、振り込み依頼のLINEを次のように添削しました。
「留学先の学校から連絡がありました。加奈の入学費用を振り込まないといけないので、ご相談しました。金額は○万円。○月○日までに振り込む必要があるそうです」
嫌味なニュアンスはできるだけそぎ落とし、要件だけ端的に伝えるようにしました。また、お礼のLINEは次のように添削しました。
「加奈にも、パパのがんばりのおかげだと伝えています。いつもお仕事がんばってくれてありがとう。心から感謝しています。涙」
最後の「涙」は絵文字です。どうでしょうか。このほうが当初の文面よりも、ぐっと好印象ではないでしょうか。
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なぜ「妻の一言」はカチンとくるのか? 夫婦関係を改善する「伝え方」教室
岡野あつこ
講談社 990円
岡野あつこ (おかの・あつこ)
夫婦関係研究家。パートナーシップアドバイザー。公認心理師。特定非営利活動法人日本家族問題相談連盟理事長。目白大学短期大学部非常勤講師。
1954年埼玉県生まれ。立命館大学産業社会学部卒業。立教大学大学院21世紀社会社会デザイン学研究科修了。自らの離婚経験を生かし、これまでに32年間で約4万件の相談を受ける。「結婚・再婚のアツコブライダル」、「離婚相談救急隊」を運営し、夫婦問題カウンセラー育成も行う。YouTube「岡野あつこチャンネル」は登録者6万人以上。