暮らしを豊かに、私らしく
夫婦問題研究家(R) 、パートナーシップアドバイザーの岡野あつこさん

かつては愛し合っていたのに、いつの間にか距離が離れている夫婦関係。
夫婦問題研究家の岡野あつこさんは「夫婦の大多数が離婚を望んでいません」と語ります。しかし、もともと他人同士の男女が同居して家庭を営むのが夫婦。その距離は近く、密度が濃い。長年重ねてきた、不満や怨恨は一朝一夕には流せないと多くの人が思っていること。岡野さんは、3万8000件以上の結婚、離婚、再婚相談を受け、数多くの夫婦問題を解決に導いてきました。その奥義を新刊『夫婦がベストパートナーに変わる77の魔法』(サンマーク出版)で紹介しています。「関係修復の要点は自分を愛すること。あなたが変われば、夫も変わります」という岡野さん。
ここでは「花人日和」読者のために、著書にはない3つの魔法を教えていただきました。

取材・文/前川亜紀

まずは自分を愛すること。あなたが変われば、夫も変わる

夫婦関係がうまくいっていない家庭は、ノイズが多いと岡野さんは言います。特に、夫がいつもムスッと無表情の「フキハラ」(不機嫌ハラスメント)をしたり、モノを粗雑に扱ったり、大声を出したり……。このようにノイズ(騒音)が多い生活を続けるうちに、妻は自分の感情を押し殺して、夫の機嫌をとったり、やりたいことを我慢するようになります。妻が限界点を迎えたとき、「夫と離婚するしかない!」と岡野さんのところにかけ込んでくるケースが増えているそうです。

岡野 コロナ禍のリモートワークでこのタイプは増えました。離婚といっても、専業主婦や非正規雇用の妻だったりすると、住むところや子供の教育費などが不安もありますし、やはり離婚は避けたいという本音がどこかにあります。それなのに、「我慢して一緒にいるのは限界」という状態になっているんです。

そこで、「あなたが我慢を辞めればいいんですよ」と提案しています。夫がフキハラやモラハラを妻に行なうのは、妻が我慢をして下手に出て、機嫌を取っている心地悪さが原因になっていることが多いのです。

そこで提案したいのは、妻が変わること。「夫に虐げられているかわいそうな妻」という自分を捨てて、「明るく堂々とした妻」を演じるのです。

このときに理想の女性像になり切るといいですね。ドラマや映画の登場人物から、親しい友人など、あなたの理想の人物を決め、「この人なら、どうするかな」と想像しながら行動するのです。

妻も、自分の理想の女性に近づく生活を始めるのですから、これはなかなか楽しいですよ。ヘアスタイルやファッションを変え、相手に対して寛容になっていきます。

そのうちに夫も、「うちの女房、なんか変わったな」と気付くようになるでしょう。自分の気持ちをしっかり持ったうえで、夫と向き合えば、下手に出ることはありません。

夫が変わる3つの行動

1.3週間、夫の反応を気にせず、笑顔で挨拶を続ける

岡野 さて、心のベースが整ったうえで妻が行なうべき行動は、夫がどんなに不機嫌でも笑顔で「おはよう」「いってらっしゃい」「おかえりなさい」と話しかけること。

このとき、夫の機嫌を取らず、堂々と心を込めて夫と向き合う。早い人で3日、長くても3週間、これを続けていると、夫は変わります。最初は無視していても、「おー」などと恥ずかしそうに返事をするはずですよ。夫婦関係が悪くなるのは、あいさつや気遣いなど、日常で「当たり前のこと」をお互いにおろそかにし続けてきたから。

また、当たり前のことを続けると、あなたをはじめ、家族全員の自信になっていくのです。家の雰囲気も変わり、夫も子どもも変わっていきます。

女性が強くなったとは言われていますが、やはり、男性に比べて体も小さく力が弱い人も多いです。正直、「夫は怖い」と、心のどこかで身構えている人は多いとも思うのです。

女性は男性からは強そうに見えています。複数の家事を同時にこなせたり、親戚のややこしい人間関係を取り仕切ったり、お金をバランスよく使えたり……。おそらく、そういう部分を、夫は心のどこかで尊敬していると思うのです。
だからこそ、「このままでは俺が支配されてしまう」とばかりに、妻に大声を出したり、不満をぶつけたりするんです。これは主導権争いのようなもの。

妻が応戦したところで、やはりケンカになるのは嫌ですし、暴力なんてもってのほか。ですから我慢して機嫌を取ったり黙ったりして、その場を収めてしまうのです。

2.夫の意見を「そうなんだ」と受け止める

――夫と対等に話すこと自体が、難しいことも多いのですが……。

岡野 夫の意見を「そうなんだ」と受け止めるだけ。これは、「私もそう思うよ」など、夫の意見を受け入れなさいと言っているわけではありません。ただ「そうなんだ」と言うだけです。これだけで、夫の出方は大きく変わります。

実は、これ、ある高級車のトップセールスマンのテクニックを応用した手法なのです。高級車を売り込まれると、客は「高いから不要だよ」と追い払おうとします。

トップセールスマンは客から拒否されると「そうですよね。わかります」と最初に客の意見を受け止める。そうされると、客は安心します。その後、しばらく黙っていると、客のほうから「高いけど、デザインはカッコいいよね」「高いだけあって、安全だよね」などと話してくるそう。

すると、彼は高級車の利点をセールストークするのです。その後、多くの客が高級車を購入していると言いますから、このテクニックは使えますよ。

これは、夫婦関係、職場、友達関係などにも応用できます。相手の意見を受け止めるうちに、あなたの中にも広い心が育ってきます。これが魅力につながり、あなた自身の幸せに結びついていきます。

3.夫に興味を持つ

――これまでの話で、夫が変わる魔法の行動は、すべて妻の成長や幸せに結びついていると感じました。誰かと比べてしまい「どうしてウチだけがだめなんだろう」とか「私は不幸だ」とか「私だけが損をしている」と思う自分にも気付きました。

岡野 40代以上の女性は、専業主婦の家庭で育っている人も多いです。人生を夫に委ね、「結婚して幸せしてもらう」という考え方が根強く残っています。「自分の力で幸せになる」のではなく、受け身の姿勢がどこかにあるのです。それよりも、自分の幸せはこれだと決め、自分を愛して人生を開拓したほうが楽しいですよ。

パートナーである夫にも興味を持つようになりますしね。夫は妻から興味を持たれるとうれしい人が多いです。これは、「浮気をしているんじゃないの?」などという詮索とは別です。

興味を持つとは、夫がどのような仕事をしているか、客観的に知ることから始まります。夫婦関係がうまくいっていない妻は、夫に興味がないんです。勤務先はかろうじて知っていても、仕事の内容や従業員数などは知らない人が圧倒的多数。

そこで、まず夫の会社のウェブサイトを見る。その組織内で、夫はどういう役職で、どのような上司や部下がいて、毎日どんな思いをして働いてるかを想像してみるのです。すると、自ずと気遣いのような気持ちが生まれてくるでしょうし、相手のことが想像できるようになります。

例えば、機嫌悪く帰ってきたときは「今日は、上司に怒られたのかな」とか「円安で業績が大変なのかな」などと思えば、そっとしたり、お茶を出したりする気遣いも生まれてきます。

夫婦は育った環境も価値観も違うからこそ、「相手の現在の状況」を見て、相手に興味を持ち想像する努力をしなければなりません。

これを続けるうちに、お互いの理解が深まるとともに、あなた自身の世界情勢、政治、経済、流行など様々な知識が蓄積されていくはずですよ。これはあなたの魅力になるはずです。

今、夫婦関係が悪いけれど、何とかしたいと思っている人は、上の3つの魔法を試してみてください。人生100年時代、本当に魅力的な男女になり、お互いに尊敬し愛し合うことが、幸せへの近道。夫婦は鏡です。お互いに「この人と結婚してよかった」と思えるような人間関係は一日にしてならず。まずは、岡野さん直伝の3つの魔法を3週間、試してみてください。

※本記事の内容は、夫から言葉や肉体の暴力を受け続けている人には当てはまりません。その場合は、自治体の窓口や専門家などに相談ください。


岡野あつこ(おかの・あつこ)
立命館大学産業社会学部卒業後、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科修了。自らの離婚経験をもとに、91年に離婚相談室を設立。以来、「 離婚しないに越したことはない!」をモットーに 、3万8000件以上の結婚、離婚、再婚相談を受け、数多くの夫婦問題を解決に導く。夫婦問題研究家(R) 、パートナーシップアドバイザー 。カウンセラー育成にも力を注ぎ、「マリッジカウンセラー、夫婦問題カウンセラー養成講座」を開講。NPO法人日本家族問題相談連盟理事長。YouTube「岡野あつこチャンネル」更新中。

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