人の顔には、それぞれの人生が刻まれると申します。若さという面では、どう足掻いても年齢とともに輝きは失われ衰えるものです。しかし、年齢を重ねることによって得た経験や体験、修得した技能、そして鍛えられた精神が、その人の顔に滲み出てくるようになります。それは、まさに渋くて味わいのある“燻し銀の表情”ではないでしょうか?
それは、若い人には無い魅力となります。そうした方々が口にする言葉も、また味わいのあるモノで心に深く浸透するものであります。そうした先人が残した一つの言葉をご紹介します。
第37回の座右の銘にしたい言葉は「融通無碍(ゆうずうむげ)」 です。
目次
「融通無碍」の意味
「融通無碍」の由来
「融通無碍」を座右の銘としてスピーチするなら
最後に
「融通無碍」の意味
「融通無碍(ゆうずうむげ)」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「考え方や行動にとらわれるところがなく、自由であること。また、そのさま」とあります。「融通」は物事が滞りなく通じること、「無碍」はさまたげがないことで、柔軟で対応力に優れていることを意味します。物事に固執せず、状況に応じて柔軟に対応できる心の在り方。まさに、変化の多い現代を生きるシニア世代に必要な心構えといえるでしょう。
年齢を重ねると、どうしても固定観念にとらわれがちです。しかし、現代社会は急速に変化しており、私たちの生活様式や価値観もそれに伴って変わっています。例えば、デジタル技術の進化やライフスタイルの多様化など、私たちの周りには新しい挑戦があふれています。こうした変化に対して、柔軟に対応できる力が求められているのです。
「融通無碍」の由来
「融通無碍」は、仏教用語として古くから使われてきた言葉です。特に華厳経(けごんきょう)の思想に基づいており、もともと仏様の悟りの境地を表現するものでした。宇宙に存在するすべてのものはそれぞれ孤立しているのではなく、互いに影響し合って、一つの調和を保っている、という教えで、あらゆる物事が互いに融け合い、完全な調和を保っている状態を指します。
現代では、「融通無碍」は仏教の枠を超えて、一般的に柔軟で対応力に優れていることを指す言葉として使われています。特に、変化の激しい現代社会においては、この言葉が示す柔軟性や適応力が重要視されています。ビジネスや人間関係においても、「融通無碍」の精神を持つことで、よりよい結果を生むことができるでしょう。
「融通無碍」を座右の銘としてスピーチするなら
「融通無碍」を座右の銘としてスピーチする際には、言葉の意味を明確にし、聴衆が共感しやすい具体的な例を用いることで、言葉の持つ意味をより深く理解してもらえます。以下に、「融通無碍」を取り入れたスピーチの例をあげます。
柔軟な発想が功を奏した経験のスピーチ例
私の座右の銘は「融通無碍」です。この言葉は、柔軟に物事に対応できる状態を意味します。40年の会社勤めを通じて、計画通りに進まないことや予期せぬ事態は日常茶飯事でした。しかし、この「融通無碍」の心構えのおかげで、どんな状況でも柔軟に対応し、最善の道を見出すことができました。
特に印象に残っているのは、大きなプロジェクトの途中で方針変更があった時です。チーム全員が戸惑う中、「できない理由を探すのではなく、どうすればできるかを考えよう」と提案し、柔軟な発想で新しい解決策を見出すことができました。
退職後の今でも、この言葉は私の道しるべとなっています。孫との付き合い方から地域活動まで、固定観念にとらわれず、状況に応じて柔軟に対応することで、充実した毎日を送れています。「融通無碍」は、単なる柔軟性だけでなく、周囲との調和や自分自身の心の平安をもたらしてくれる素晴らしい言葉です。
最後に
「融通無碍」という言葉は、シニア世代にとって、これからの人生をより豊かにするための重要な指針となります。柔軟な心を持ち続けることで、変化を楽しみ、新しいことに挑戦し続けることができるのです。この言葉を座右の銘にし、日々の生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
●執筆/武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com