人の顔には、それぞれの人生が刻まれると申します。若さや美しさという面では、どう足掻いても年齢とともに輝きは失われ衰えるものです。しかし、年齢を重ねることによって得た経験や体験、修得した技能、そして鍛えられた精神が、その人の顔に滲み出てくるようになります。それは、まさに渋くて味わいのある“燻し銀の表情”ではないでしょうか?
それは、若い人にはない魅力となります。そうした方々が口にする言葉も、また味わいのあるもので心に深く浸透するものであります。先人が残した一つの言葉をご紹介します。
第27回の座右の銘にしたい言葉は「大器晩成(たいきばんせい)」 です。
目次
「大器晩成」の意味
「大器晩成」の由来
「大器晩成」を座右の銘としてスピーチするなら
まとめ
「大器晩成」の意味
「大器晩成」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「大きな器が早く出来上がらないように、大人物は世に出るまでに時間がかかるということ」とあります。若い頃は目立たないかもしれませんが、歳月を重ねることでその人の真価が発揮されるという深い教えが込められています。
「大器晩成」の由来
「大器晩成」とは、中国の古典『老子』に由来します。『老子道徳経』第41章には次のようにあります。
【白文】
大器晩成、大音希聲、大象無形。
【書き下し文】
大器は晩成し、大音(たいおん)は希声、大象(たいしょう)は形無し。
【現代語訳】
大器は晩成し、大音はかすかに聞こえ、大いなるかたちには形がない。
大きな器は完成するのに時間がかかる、ということですので、原義は「大きな器は完全なものではない」という意味で、現在使われている意味とは異なったものでした。その後、中国三国時代について書かれた歴史書『三国志魏志』に次のようにあります。
【白文】
琰従弟林、少無名望、雖姻族猶多軽之、而琰常曰、此所謂大器晩成者也、終必遠至。… 後林至鼎輔。
【書き下し文】
琰(さいえん)の従弟(いとこ)の林、少(わか)くして名望 無し。姻族と雖(いえど)も猶お多く之を軽んずるも琰常に曰く、此れ所謂(いわゆる)大器晩成なる者なり。終に必ず遠く至らん。… 後 林 鼎輔(ていほ)に至る。
【現代語訳】
琰の従弟の林は若い時は名望が無かった。親戚でもなお、多くが軽んじたが、琰が常に言うには 「これはいわゆる大器晩成という者だ。いつかはきっと遠い存在になるだろう。」… のちに林は宰相になった。
このエピソードから、現在のようなポジティブな意味として使われるようになったといわれています。日本でも太宰治の『失敗園』で、
「僕は孤独なんだ。大器晩成の自信があるんだ」
という表記が見られます。
「大器晩成」を座右の銘としてスピーチするなら
シニア世代の多くは、若い頃には手に入れられなかった夢や目標に向かって、今こそ挑戦するチャンスがあると感じているのではないでしょうか? 「大器晩成」を座右の銘としてスピーチするなら、その長い人生経験を活かし、新しいことに挑戦し続ける意欲を持つ意味などを盛り込むと、聴衆を惹きつけることができるでしょう。以下に「大器晩成」を取り入れたスピーチの例をあげます。
学び続ける大切さについてのスピーチ例
皆さん、「大器晩成」という言葉をご存知でしょうか? この言葉は、「大きな人物は成功するまでに時間がかかる」という意味を持ち、つまり、大きな成功や才能は時間をかけて成熟するということです。
シニア世代の私たちにとって、この言葉は非常に励みになります。若い頃に経験した失敗や挫折、試練は、実は私たちを強くし、豊かにしてくれるものだったのです。これからの人生で、その経験や知識が花開く時期が来ています。焦らず、自分のペースで成長し続けることが大切です。学びを続け、新たな挑戦を恐れずに進みましょう。
大器晩成を座右の銘に、私たちの人生はまだまだこれから輝きを増すことができるのです。共に、新しい未来を築きましょう。
まとめ
「大器晩成」という言葉は、シニア世代にとって新たな挑戦のきっかけとなり、人生の後半を豊かにするための力強い座右の銘となり得ます。この言葉を心に留め、自分の夢や目標に向かって進んでください。今からでも遅くはありません。人生の新しい章を開き、豊かな日々を送りましょう。
●執筆/武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com