高齢者雇用安定法の改正などにより、高齢になっても仕事を続けている人は増えました。働いて収入を増やすことは良いことですが、老後の生活を支える柱はやはり年金です。ところで、老齢年金には繰り上げ・繰り下げという制度があることを知っていますか?

言葉は聞いたことがあっても、内容はよくわからないという方が多いのではないでしょうか? 今回は、年金の繰り下げについて、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
年金の繰り下げ受給とは
年金を繰り下げたらいくら増額される? 計算方法も
年金を繰り下げるメリット・デメリット
年金繰り下げてよかった! 実例を紹介
まとめ

年金の繰り下げ受給とは

老齢年金の代表的なものは、国民年金の老齢基礎年金と老齢厚生年金です。国民年金は、国民全員を対象とした年金であり、厚生年金は適用事業所に雇用されている人が加入する年金です。年金は2階建ての仕組みになっており、1階部分は国民年金の老齢基礎年金、それに上乗せされる形で2階部分の老齢厚生年金が支給されます。

老齢年金の支給開始年齢

原則として、老齢年金の支給開始年齢は、国民年金、厚生年金ともに65歳となっています。あえて「原則として」と記したのは、老齢年金は段階的に支給年齢を引き上げてきたため、65歳前に厚生年金を受け取れる方が一部いるからです。年金の支給開始年齢の3か月前になると、受給者本人宛てに年金請求の手続書類が送られてきます。

繰り下げて受け取る場合は65歳で年金の請求をせず、66歳以後75歳になるまでの間に請求することになります。繰り下げた月数に応じて一定の増額がありますが、この増額率は一生変わりません。なお、繰り下げは老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に行なうことができますので、片方だけ繰り下げることも可能です。

ただし、一部の人に65歳前に支給される「特別支給の厚生年金」は、繰り下げることができないので注意が必要です。ちなみに繰り上げる場合は、支給開始になる前に年金を請求することになりますが、繰り上げは基礎年金、厚生年金と同時に行なわなければなりません。

年金を繰り下げたらいくら増額される? 計算方法も

年金を繰り下げると、どのくらい増額されるのでしょうか? 繰り下げの場合、最低1年以上繰り下げる必要がありますが、66歳以降75歳になるまでは1か月単位で繰り下げることできます。75歳になると、それ以上繰り下げることはできません。増加する額は、受給権が発生したときから、繰り下げた月数×0.7%で計算されます。

つまり、1年間繰り下げると8.4%、5年間繰り下げると42%の増額になります。例えば、65歳で毎月15万円の年金をもらえる人が5年間繰り下げて70歳から受け取るようにすると、毎月21万6千円の年金を受け取れるわけです。低金利時代の今、この増額率はかなり大きいと言えるでしょう。人によっては、老齢基礎年金の振替加算、老齢厚生年金の加給年金という加算分を受け取れる場合があります。

計算する際の注意点

増額計算のもととなる年金額は、これらの加算を除いた金額になりますので、計算する時は注意が必要です。また、66歳前に障害給付や遺族給付など他の年金を受け取れる人は、繰り下げができない場合もありますので、年金事務所に確認してください。

年金を繰り下げている間は、日本年金機構から「繰下げ見込額のお知らせ」が送られてきますので、それによって将来受け取れる年金額を確認することができます。

年金を繰り下げるメリット・デメリット

年金を繰り下げることの一番のメリットは、やはり年金が増えるということでしょう。年に8.4%の増額率ですから、5年繰り下げると42%、10年繰り下げるとなんと84%の増額となりますから、年金額を増やしたいという人には大変有効な方法です。増額された年金は死ぬまでもらえるので、人生100年時代に備えるにはいい選択といえます。

3つのデメリット

もちろんデメリットもあります。5年繰り下げた場合、損得の分岐点はおよそ12年先です。12年超えれば得になるとはいえ、それより早く亡くなってしまう人もいるのが現実です。2番目のデメリットは加給年金が受給できるケースです。厚生年金に20年以上加入していた人が老齢厚生年金を受け取るとき、65歳未満の配偶者または一定の条件を満たした子がいる場合、加給年金が加算されます。

これは老齢厚生年金に加算される額なので、繰り下げしているとその間は加給年金も受け取れません。配偶者の加給年金は年間40万円近い金額ですから、年下の配偶者がいる場合、繰り下げた年数分のマイナスは大きいといえます。

3番目は早くに配偶者を亡くして遺族年金を受け取る場合です。例えば、妻が夫の遺族厚生年金を受けるようになると、妻自身の老齢厚生年金を受け取ることはできません。ただし、その場合も国民年金の老齢基礎年金はもらえますから、老齢基礎年金だけを繰り下げるという方法もあります。

年金繰り下げてよかった! 実例を紹介

繰り下げ受給についてのメリット・デメリットを確認してきました。ここでは、年金を繰り下げてよかったという例を二つ紹介します。

一つ目の例

一つ目の例は、単身者のケースです。いざという時頼れる家族もなく、遺族年金などの受給もないとなると、老後の生活を支えるのは貯蓄と年金です。長く働き続けることがベストですが、十分な収入や貯蓄が確保できるとは限りません。

こういう場合、早く亡くなったら損ということよりも、長生きリスクに備えるほうを優先したほうが良いと言えるでしょう。年金の繰り下げで、老後の生活費が増えて良かったという人も多数います。

二つ目の例

二つ目の例は、夫婦二人ともに厚生年金に加入して働いているケースです。この場合、夫も妻も老齢基礎年金と老齢厚生年金を受けられますので、繰り下げの増額は大きくなります。どちらかが亡くなったとしても、遺族年金より自らの厚生年金が高い場合はそちらを選択することになりますので、厚生年金が受け取れなくなる心配もありません。

まとめ

年金の繰り下げは、若い時はなかなかピンとこないものですが、年金を受け取る年齢になると重要な問題となってきます。自分がいつまで生きるかということは誰にもわかりません。ただし、長生きすることを前提に考えると、年金の増額は老後の生活にとって大きいものです。仕事や家庭の事情をよく考えたうえで、無理のない範囲で年金の繰り下げを検討すると良いでしょう。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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