高齢化が進む中、高齢者が自身の資産をどのように管理し、次世代に継承するかが重要な課題となっています。

認知症などにより判断能力が低下すると、自身の資産を適切に管理することが、できなくなるかもしれません。そこで注目されているのが、信頼できる家族に資産管理を委託する、家族信託です。家族関係も多様化しており、これまでの相続制度や成年後見人制度では対応が難しいケースが増えており、より柔軟な対応が可能な、家族信託の利用の拡大が見込まれます。

そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士・中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た幅広い知識や経験に基づき、家族信託に関する契約書の書き方や記載事項、専門家に依頼する際の留意点について説明します。

目次
家族信託の契約書の記載事項は?
家族信託の契約書の書き方は?
家族信託の契約書は自分で作成できる?
家族信託の契約書を専門家に依頼するときの注意点は?
まとめ

家族信託の契約書の記載事項は?

家族信託を行なうにあたり、必要な書類に「信託契約書」があります。信託契約書を基に、委託者から信託された受託者が、生活費の支払い、財産の活用などを行なうため、この契約書は家族信託の基礎となるものです。

「信託契約書」には、以下のような記載事項が含まれます。これらの事項を明確にすることで、信託契約の目的や範囲、関係者の権利義務などを正確に伝えることができます。

なお、(1)~(3)は最低限記載が必要です。

(1) 信託契約書の趣旨、信託の目的

当契約が家族信託契約であることと、信託契約の目的を明確にします。

例:資産の管理・運用、相続対策、受益者の生活支援など

(2) 信託財産の内容

信託財産となる資産(不動産、現金、株式など)の詳細を記載します。

(3)当事者について

下記当事者の名前、住所、生年月日などの情報を記載します。

委託者(信託の設定者)… 信託財産を提供する者
受託者… 信託財産を管理・運用する者
受益者… 信託財産から利益を受け取る者

(4)信託財産の管理・運用方法

受託者がどのように信託財産を管理・運用するかについての具体的な方法を記載します。

(5)信託期間

信託の有効期間(「信託開始日から終了日まで」「特定の条件が満たされるまで」など)を記載します。

(7)受託者の報酬

受託者が受け取る報酬について、金額や支払い方法などを記載します。

(8)受益者の権利義務

受益者がどのような権利を有し、どのような義務を負うかについて記載します。

(9)信託の変更・終了条件

信託契約を変更または、終了するための条件や手続きについて記載します。

(10)紛争解決方法

信託契約に関して、紛争が生じた場合の仲裁、調停、裁判などの解決方法を記載します。

(11)その他特記事項

上記のほか、信託契約に関して、特別な条件や合意事項などの必要な事項を記載します。

家族信託の契約書の書き方は?

冒頭でお伝えしたとおり、家族信託は既存の制度では、解決が難しいケースに対応ができて、柔軟な設計ができます。そのため、契約書の作成についても、ご家族の状況や希望に応じて自由に設計することが可能です。

状況に応じたひな形が様々ありますが、下記の状況に応じて次のような内容を加えると円滑に遂行できます。

1:認知症対策が必要な場合

契約書に、委託者の自宅の処分まで受託者が行なえるように記載しておくことや、信託内容の変更が、委託者なしでもできるように記載しておくことで、委託者が認知症になったときなどに、対応することができて安心です。

2:二世代以上先の財産承継を指定したい場合

遺言書では自身の財産承継しか指定することができません。しかし、家族信託では契約書に二世代、三世代以上先の相続まで指定することが可能です。そのためには、その承継先を明記しておく必要があります。

3:事業承継をスムーズにするための文例

自社株式を信託財産とする家族信託を行なえば、後継者が確定するまでは受託者に自社株式を管理させることができ、段階的に事業承継を行なうことが可能です。

家族信託契約書には、事業承継が目的であること、委託者死亡後も受託者が管理し、後継者を見定めてから自社株式を帰属させることなどを明記します。また、信託契約書は公正証書で行なうことで、将来の争いを防止する等にも役立ちます。

家族信託の契約書は自分で作成できる?

現在ではインターネット上に契約書のテンプレートなども公開されており、それを基に自分で契約書を作成することができます。自分で作成することで、費用の節約につながりますが、契約書の作成には専門的な知識が必要です。インターネット上の情報はすべて正しいわけではありません。なかには間違った情報も発信されています。テンプレートも例外ではなく、契約書の内容に矛盾があるものも存在します。

それらをもとに契約を行なってしまうと、契約自体が無効となってしまう、または自分に不利な契約になってしまった、という事態に陥る可能性もあります。最悪の場合、専門家に再度依頼しようとしたときには、委託者の意思能力が失われていた、というケースも想定できるでしょう。そうなってしまうと、家族信託自体が使えなくなってしまいます。

家族信託の契約書を専門家に依頼するときの注意点は?

家族信託の円滑な遂行には、専門的な知識が必要です。家族信託は比較的新しい制度で、精通している専門家は、まだまだ少ないですが、家族信託を得意とする弁護士や司法書士などの、専門家に依頼することをお勧めします。

家族信託を依頼するにあたり、その目的や希望する内容を明確に伝えることが重要です。例えば、どの資産を信託するのか、信託の受益者は誰か、信託期間はどのくらいか、などを明確にします。また、信託財産の選定も慎重に行なうことが重要です。

不動産、現金、有価証券など、様々な財産が信託の対象となりますが、それぞれに適した取り扱い方があります。専門家と相談しながら最適な選定を行なうのがお勧めです。専門家に依頼するデメリットとしては、費用がかかることが挙げられます。事前に見積もりを取って費用を確認し、料金体系が明確であること、追加費用が発生する可能性があるかどうかも確認しておくと安心です。

まとめ

家族信託は自由な設計が長所である反面、自由であるがゆえに、作成をするにも様々な知識が必要です。ご自身での作成も可能ですが、前述のように無効となってしまう、不利な契約となってしまうことがあり、専門家への相談をお勧めします。

専門家と相談しながら、誰が見ても判断を誤らない契約書となるよう記載事項を選定し、家族信託の契約書を作成できるとよいでしょう。家族全員が納得をして、委託者の財産をうまく活用できるよう、理想的な相続・承継ができるよう制度を活用しましょう。

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com

 

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