我が国は、1970年に65歳以上の人口が7%を超え、2010年には21%を超え、超高齢社会に突入しました。そして、現在も超高齢社会が継続している状況にあります。また、年齢が上がるにつれて認知症になる確率も上昇することから、認知症を患っている人も年々増加傾向にあります。

認知症が進行すると、判断能力の低下を理由に銀行の口座などが、凍結されてしまうことも考えられるでしょう。そうなると、親族である子どもでも、親のお金を下ろすことができないため、ご自身の介護費用を子どもが負担することにもなりかねません。

そのような、将来の認知症のリスクに備えた対策の一つとして、家族が財産の管理等を可能とする「家族信託」という手法が注目されています。

そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士・中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た幅広い知識や経験に基づき、家族信託が有効となるケース、その手続きや必要な書類ついてご説明いたします。

目次
家族信託とは?
家族信託が必要な場合とは?
家族信託の手続きの流れとは?
家族信託に必要な書類は?
家族信託はいつどのタイミングで行なうのがいい?
まとめ

家族信託とは?

家族信託とは、認知症などにより判断能力が低下し、自分で財産を管理できなくなることへの備えとして、家族によって財産の管理、運用、処分ができる一つの手法です。

家族信託には、「委託者(財産について信託する人)」、「受託者(信託財産の管理・運用・処分等を行なう人)」、「受益者(財産から利益を受ける人)」が登場します。「委託者」と「受益者」は財産を所有している親、「受託者」は子ども、といったイメージです。

例えば、財産の所有者である親(委託者)が、認知症により財産を管理できなくなってしまった場合でも、信託した財産に限り、子ども(受託者)が財産の管理、運用、処分をすることができるようになります。そして、財産の運用や処分によって得た金銭は、財産を所有する親(受益者)が受けることが可能です。

家族信託が必要な場合とは?

家族信託が必要な場合とは、どんなときなのか見ていきましょう。

1:親の介護費用、生活費、医療費は親の財産から支払う場合

医療費や介護費用、老人ホーム入居費などを親の財産から支払いたい場合は、家族信託が必要になります。

2:不動産などの財産を所有及び不動産収益を得ている場合

アパートなどの収益物件がある場合、認知症などにより所有者が財産管理することが難しくなったとして、家族信託により、子などが財産管理を続けられるようになります。

なお、不動産会社に管理を任せていたとしても、修繕工事や賃料の不払いへの対応、物件の売却などの場面で支障が生じる場合があるため、家族信託をしていれば安心です。

3:家族のみで財産管理を行うようにしておきたい場合

本人以外が財産を管理する手段として、成年後見制度もあります。しかし、家族以外の専門職が選任されたり、監督人が選任されたりするため、家族以外の第三者の意思が入ってしまうことに不安がある方や、専門職の報酬負担が気になる方は家族信託を検討してみてもいいかもしれません。

4:二次相続まで、財産の承継先を決めておきたい場合

家族信託では、「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」にすると、先々の相続のことまで決めておくことが可能です。例えば、今の所有者が亡くなったら、配偶者が相続し、配偶者がなくなったら長女が相続する、というようなことを決めておくことができます。これを行ないたい場合は、家族信託が必要です。

5:財産管理が困難な子どもに財産を残したい場合

何らかの要因により財産の管理が難しい子どもがいる場合、将来の生活保障に家族信託を利用することができます。親が委託者、子どもを受益者とし、信用のおける親族などを受託者にすることで、子どもに対して適切な財産管理や運用、または処分を行なうことも可能です。

家族信託の手続きの流れとは?

家族信託の手続きの流れは、以下のとおりです。

1:信託に関係する人を含んだ家族で家族信託について合意を得る

家族信託には、家族との話し合いがとても重要です。特に、受託者に対して家族信託の目的や仕組みが伝わらないまま進めても、結果的に管理の手間だけ押し付けられたと思われてしまい、家族信託が円滑に進まないことも考えられます。家族間での話し合いは十分に行ない、家族信託について了承、理解を得ていることが大切です。

2:家族間の話し合いで決めた内容に基づいて信託契約書を作成する

家族での話し合いがまとまれば、信託契約書を作成し、家族信託を行なう主旨、目的、財産や委託者、受託者、受益者の氏名、信託財産の管理方法などを記載します。また、信託契約書は公正証書で行なうことで、将来の争いを防止することなどにも役立つでしょう。

3:財産の名義を委託者から受託者へ移す

不動産管理を信託する場合、実質的な所有者は元のままですが、法務局での不動産移転登記手続きが必要になります。

4:財産管理のための専用口座を開設する

金銭を信託する場合、受託者の名義で専用口座を開設します。

家族信託に必要な書類は?

信託契約の締結や各種手続きには、例えば、以下のような書類が必要です。

(1)信託契約書
(2)委託者および受託者の印鑑証明書(発行から3か月以内)、実印
(3)家族信託関係者の戸籍謄本および住民票
(4)委託者と受託者の身分を確認できるもの(運転免許証など)
(5)信託財産の資料

不動産を信託する場合、不動産の登記済証または登記識別情報、登記事項証明書、固定資産評価証明書、名寄帳、公図などが必要です。

なお、全ての書類を準備するには時間がかかり、状況によっては、他の書類が必要になる等があることも考えられます。そのため、司法書士等の専門家に相談の上、場合によっては必要書類の収集の依頼をお願いすることもよいでしょう。

家族信託はいつどのタイミングで行なうのがいい?

家族信託は、所有者が認知症になってからではできない対策です。そのため、委託者が健康で判断能力があるうちに、契約を行なうことが望ましいでしょう。

家族信託は準備期間が必要になるため、認知症などの症状が現れる前に、家族や専門家と相談しながら進めていくことが大切です。特に、最近、物忘れなどの症状が出てきた、管理する財産はあるが将来の管理が不安に思えるようになった場合は、早めに家族信託の準備を開始した方がよいでしょう。

まとめ

家族信託は、円滑な財産管理を実現できます。ご自身で財産管理をすることが難しくなったとしても、受託者である家族に財産管理を任すことで将来の不安を軽減し、安心して生活することができる有効な方法です。家族信託を用いれば、ご自身の判断能力がなくなった後でも、介護費用、生活費、医療費などの財産管理や不動産管理などを適切に行なうことができます。

しかし、家族信託を行なうためには、委託者や受託者に対する関係書類、管理する財産に対する必要書類などを準備する必要があることや、認知症などにより判断能力が低下してしまうと、家族信託が締結できなくなる場合があります。

そのため、心身ともに健康なうちに、家族信託に関係する話し合いを家族間で十分に行なったうえで、専門家に相談しながら進めていくとよいでしょう。

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com

 

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