大人の味方をつける術を覚えた
中学に入って、香苗さんは地域活動のボランティアに参加するようになる。ボランティアの合間に大人たちに勉強を見てもらったり、食事をもらったりしていたそう。
「家でもちゃんと食事を用意してくれてはいましたけど、足りないし、たくさん食べるのも罪悪感があったんです。だから、外でお腹を満たそうとしていました。
小学校のときによく行っていた児童館には中学になっても通い、児童や小学生と一緒に遊んで面倒を見ていました。そうすると、大人たちがお礼にとお菓子をくれたり、勉強を見てもらえたりしました。児童館で働く大人からの紹介でお年寄りが集まる場所にもボランティアで行けるようになり、大人と知り合う機会は増えていった。大人たちはみんな優しくしてくれました」
地域の人と仲良くすることは母親のためでもあったという。
「当時、周囲ではひとり親がいなくて、私たち親子は目立った存在でした。それに母親は仕事をしていてPTA活動にも参加していなかったので、地域から孤立しているように見えたんです。だから、私はちゃんとしないといけなかった。片親だからというレッテルを覆すような存在にならないといけなかったんです。愛想よく、地域でいい子になろうと決めていました」
香苗さんは塾などにも通うことなく、ボランティア活動の合間の勉強で進学校だった公立高校に合格した。もう少し上の高校を目指すこともできたが、家からできる限り近い高校を選んだ。その理由は通学の交通費ではなく、通学時間にあった。
「交通費は、母子家庭であれば市の運営する交通機関が無料だったので関係なかったんです。でも距離が遠くなると通学時間がかかる。その分アルバイトする時間が減ると考えて、近場にしました。
高校は原則アルバイトは禁止だったんですが、すでに地域に大人の知り合いが多くいたので、学校に隠して雇ってくれるところがたくさんありました。接客のバイトでは先生が客として来る可能性もあるので、平日の夜は近所の飲食店で皿洗いなどを、休みの日は仕込みなどをしていました」
裕福だったら知らなかった達成感がそこにはあった。【~その2~に続きます】
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。