取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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大学の中退を許可したのが間違っていた
彰人さん(仮名・70歳)は、有名国立を出て官僚として活躍した経歴の持ち主だ。数年前、元農水次官が息子を刺殺したことがニュースになり、世間でも大きく取り上げられていたが、「他人事ではない」と言う。
「ウチの長男(40歳)とは、ここ10年くらい会ってはいない。しかし、定期的に金を振り込んでくれと連絡がある。そう言われると仕方がないから払ってしまう。その繰り返しなんだよね」
その依頼は、月に1回程度1回20万円のときもあれば、3年ほど音信不通だったと思っていたら、“このままだと殺される。300万円振り込んでくれ”など、金額はまちまちだという。
「家内が生きていた10年前までは、息子も一緒に住んでいたのだけれど、家内が59歳の若さでがんで亡くなってからは、全くと言っていいほど、寄り付かなくなった。やっぱり、家庭は女性で回っていると痛感する。昔、あれだけ来ていた長女(43歳)と孫も、全く寄り付かなくなった。何かあると“コロナが怖いから”と言う。その前も受験だなんだと私が金を出しているのにね」
認めたくないが、彰人さんは「嫌われている」という。
「厳しいというのはあると思います。そもそも、家内が子供たちに甘いので、私ぐらいが厳しくしなければけじめがつかない。それに対して私がケジメをつけるように言うと、“お父さんと今の子どもたちの時代とは違うんですよ”と言い、娘と息子を甘やかすだけ甘やかした」
最も甘やかしたことは何なのだろうか。
「自転車の事でしょうね。息子は小学校から付属に入れたのですが、娘は都立高校に進学したんです。その学校がウチから微妙にアクセスが悪いところにあり、電車で一駅乗って、徒歩13分みたいな場所だったんです。家内は高性能自転車を買おうとしたのですが私はそこで娘を甘やかしたらクズになると思った。それで“甘ったれるな。私は豪雪の中、片道25分歩いて高校に通ったんだ。軟弱な!”と一喝してやったんです」
【娘は高校を中退して、それを父親のせいにしてきた。次ページに続きます】