昔の話になりますが、かつて昭和の時代に定年を迎えた人にとって、定年は「仕事人生の終わり」という認識でした。その頃は定年というと、会社人生をリタイアして悠々自適の老後、というイメージを抱いていた人が数多くいました。

しかし、令和の時代となった今、定年後は悠々自適などという人は少ないでしょう。平均寿命の延びにより、定年世代はまだまだ若いということもありますが、老後のお金を取り巻く事情が昔とは違うことも大きいと言えます。「老後は2000万円必要」という言葉が、物議をかもしたのを記憶している人も多いでしょう。今回は「定年」について、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
定年退職とは? 定年退職の現状
定年退職するまでの流れ
定年退職の手続き
まとめ

定年退職とは? 定年退職の現状

「定年」とは、定年退職制度を導入している企業の社員が、あらかじめ定められた退職年齢に達したことを指します。昭和の頃、定年は55歳が主流でしたが、平成6年(1994)には原則として60歳未満の定年が禁止され、60歳定年の時代となりました。

その後も定年年齢の平均は徐々に上がり続け、令和4年(2022)の厚生労働省統計では、65歳以上を定年としている企業の割合は2割を超えています。昨今の人手不足もあり、今後も定年引き上げ、定年廃止の企業が増える傾向は続いていくでしょう。

とはいえ、まだ8割近くの企業が60歳定年を採用しているのが現状です。60歳で定年を迎えたら、生活はどうなるのでしょうか? ここで大きな問題となるのは、年金の受給です。

人生100年時代となり、「老後」は長くなりました。年金の受給開始年齢は段階的に引き下げられ、一部の人を除いて65歳支給開始が一般的となっています。60歳で定年退職した場合、年金受給開始まで何らかの形で生活費を確保しなければなりません。

そのため、現在は希望者が65歳まで働けるシステムを作ることが、法令で企業に義務づけられています。定年が65歳未満の企業は、定年の引き上げや廃止、もしくは65歳までの継続雇用制度を導入しなければなりません。

つまり会社員は定年を迎えると、その後働くか働かないかという選択の岐路に立たされることになります。現状では、多くの人は、再雇用という形で勤務を継続したり、別の会社に再就職して収入を得る道を選んでいます。

もちろん、貯蓄などに余裕のある人は、仕事から完全に離れて、趣味の世界を楽しんだり、地域社会や家族との生活を中心に暮らす選択肢もあるでしょう。一方で、将来年金を受給できるようになっても、年金だけでは生活できないのではと悩む人も少なくありません。いずれにしても、定年後は長い老後を過ごすためのお金の問題に直面することになります。

定年退職するまでの流れ

定年は今までの仕事人生に区切りをつけ、次のステージに向かう節目です。定年が近づいてきたら、自分は今後どのように生活していくのか、ある程度の心構えと準備が必要です。まず、自分の会社の定年退職に関する規程を確認しましょう。

定年が60歳の誕生日である会社もあれば、60歳になった年の年度末である会社もあります。定年延長、再雇用制度などもどのような内容なのか確認する必要があります。これらの規程や手続きについては、会社からあらかじめ説明があることも多いので、疑問点などは整理しておくと良いでしょう。

退職金の規程なども就業規則で確認し、いくらぐらいもらえるのか把握しておきましょう。将来もらえる年金額は、「ねんきん定期便」などで確認できます。年金事務所に相談したり、資料などを集めてある程度年金の知識を持っておくとなお良いでしょう。

貯蓄や資産状況なども含めて、老後のお金のことは家族で話しあっておくことをおすすめします。また、定年を迎える前には、会社の業務の引継ぎなどもあると思います。退職しても、会社の人間関係が完全に切れるわけではありません。反対に会社での経験や人脈が、その後の人生にプラスになることもあります。「立つ鳥跡を濁さず」の精神で、余裕を持って定年を迎えることを心がけましょう。

定年退職の手続き

いざ定年を迎えると、退職日前後には様々な手続きが必要になります。退職金の請求、雇用保険離職手続き、健康保険の手続きなどです。これらの手続きは、ほとんど会社の人事担当者が説明してくれると思いますが、ある程度は自分で下調べをして、わからない点は質問するようにしましょう。

定年後の継続雇用を選択せず、離職する場合は、雇用保険の失業給付を受給することができます。失業給付の金額は、給与や勤続年数によって異なりますが、離職後ハローワークで求職申し込みをすれば受給可能。

失業給付を受けながら、ハローワークの情報などを活用してじっくりと次の仕事を探すのも良いでしょう。定年退職後、すぐには求職活動をしたくないという人は、1年を限度に失業給付の受給期間を延長することも可能です。

ある程度の期間、ゆっくりと骨休めをしてから、次のステージに移るのも一案です。求職活動中に、起業などを考えて資格取得などの勉強を始める人もいます。人生100年時代ですから学びなおしは意義のあることではありますが、ここで気を付けなければならないのは、今までの自分を過信しないことです。転職や起業はリスクをともなうことを忘れてはなりません。

安定した生活をおくることを第一と考えて、退職金や貯蓄などは計画的に使いましょう。

まとめ

定年は人生の第二ステージの出発点。今の時代の定年はそういう位置づけであると言えるでしょう。自分の人生、そして家族との関係を改めて見つめなおすチャンスでもあります。同じ会社で働き続けるも良し、転職するも良し、仕事を離れて別の世界で新たな楽しみを見つけることもまた良し、です。

そのためには健康に留意すること、そして、生活のための資金計画が大切なのは言うまでもありません。定年後、豊かなセカンドライフを過ごすための準備は、早いうちに始めることが重要です。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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