「壁」という言葉には通常の囲みや仕切りといった物理的な意味のほかに、比喩として「前進を阻むもの」「進展の妨げとなるもの」という意味合いがあります。

今回は年金における、「壁」のお話です。「パート給与の103万円の壁」、社会保険上の「扶養の130万円の壁」は、皆様もどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。年金の制限についても同じような考え方があり、それを「年金211万円の壁」といったりします。

そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た知識や経験に基づき、年金211万円の壁について、その概要とメリットについてご説明いたします。

目次
「年金211万円の壁」とは?
「年金211万円の壁」を超えないとどうなる? メリットは?
「年金211万円」を超えていないか調べるには? 計算方法は?
まとめ

「年金211万円の壁」とは?

まず「年金211万円の壁」とは、65歳以上で公的年金をもらっている世帯の年金受給者に対する境界線のことです。具体的には、65歳以上で年金受給世帯の世帯主の年収が211万円以下で、かつその配偶者(65歳以上)の年金収入が155万円以下であれば、その世帯は住民税の非課税世帯になる、という境界線のことです。

「年金211万円の壁」は税金的には住民税のことをいいます。さらにそれに連動して、健康保険料や介護保険料の負担が変動するというものです。この件が大きく取沙汰されているのは、この「211万円」を少しでも超えると、連動して介護保険料をはじめとする負担がぐっと増えることが問題となっています。

住民税について

以下、この問題について触れていきましょう。まず、住民税について簡単にご説明します。

その人の1月1日から、12月31日までの1年間の所得額を基に税額を計算し、翌年に納付します。住民税は、都道府県民税と市区町村民税に分かれており、納付先はその年の1月1日に住んでいる自治体です。計算の基礎は前年の所得になり、そのため退職した翌年に退職年の所得をベースに住民税を納付することになります。

住民税の計算は「所得割」と「均等割」の合計金額を算出することです。所得割とは、所得額に応じて課税される部分で、所得が高くなると、この所得割の税額も比例して高くなります。住民税の非課税世帯というのは、所得割と均等割の両方が非課税、つまり住民税の納税が0円になる世帯のことです。

また、お住まいの地域は級地区分が定められており、住民税の非課税世帯にあたるかどうか判断に影響が生じます。前述してきた「年金211万円の壁」は、1級地にお住まいの方に当てはまる基準であり、2級地、3級地にお住まいの方は、それぞれ非課税となる年金収入の限度額が異なるため注意が必要です。お住まいの地域がどの級地に区分されているかは厚生労働省のHPから確認することができます。

級地ごとの年金年収限度額(参考)

級地世帯主(65歳以上)配偶者(65歳以上)
1211万円155万円
2203万円152万円
3193万円148万円

※地方自治体により多少異なることがありますので、詳細はお住まいの自治体にご確認ください。

「年金211万円の壁」を超えないとどうなる? メリットは?

「年金211万円の壁」を超えない、つまり住民税が非課税になると様々なメリットがあります。

(1)住民税がかからない

年金生活者であっても所得のある方は住民税の納税義務があります。「211万円の壁」を超えないと、この住民税が非課税になります。

(2)介護保険料の負担が小さい

お住まいの地域にもよりますが、「年金211万円」を1万円でも超えると、世帯で年間約7万円もの負担増になる試算が出ているケースもあります。

(3)国民健康保険料の減額措置を受けられる

厳密には「211万円の壁」が判定基準ではないのですが、国民健康保険料の均等割・平等割の部分が、所得金額により軽減措置があります(減額割合は各自治体によって異なる)。

(4)高額療養費、高額介護サービス費の負担の限度額が低くなる

「高額療養費」制度では、同一月内に高額な医療費の自己負担が必要となった際に、限度額を超えた分について還付をうけることが可能です。住民税非課税世帯は、この自己負担の限度額が低く設定されています。

「年金211万円」を超えていないか調べるには? 計算方法は?

パソコンやスマートフォンなどのインターネット環境が整っている方は、「ねんきんネット(日本年金機構)」を利用すれば、自分の年金記録や年金額をいつでもすぐに、最新の情報を閲覧できます。なお、ねんきんネットを利用するためには、事前に利用登録が必要です。もし、ねんきんネットを利用する際にご不明な点があれば、日本年金機構に問い合わせることができます(ナビダイヤル 0570-058-555)。

もしインターネット環境がない場合には、下記の方法で照会が可能です。

(1)ねんきんダイヤル・年金事務所で照会する

ねんきんダイヤルに電話をかけると、年金見込額と計算のもとになった年金加入記録を照会できます。電話をかける際には、ご自身の基礎年金番号が分かるものを手元に用意しましょう。また、年金事務所の窓口でも年金見込額と年金加入記録の照会ができます。照会の際に必要な持ち物に関しては、事前に持参する年金事務所に確認しておくと良いでしょう。

(2)ねんきん定期便を確認する

毎年誕生月に送付されるねんきん定期便でも、年金の試算(見込み)額や加入記録を確認することが可能です。通常届くハガキのねんきん定期便には、直近1年分の記録が記載されています。 

ただし、ねんきん定期便は定期便作成時点での記録であるため、最新の情報ではないことに注意が必要です。また、ねんきん定期便を破棄したり、紛失したりした場合は再発行が可能ですが、届くまでには2か月ほどかかることがあります。

まとめ

今回は「年金211万円の壁」についてご紹介しました。年金生活者にとって、もらう年金金額がそれほど変わらないのに、少しの差で数万円もの保険料の負担が変わってしまう、というのは受け入れ難いものです。そういった意味では、すでに年金の額が確定していて、それがちょうど211万円を少し超える方であれば、年金の受給時期を後ろに延ばすといったことも検討するのも良いでしょう。

しかし、現役世代の方であれば、壁を眺めて通り抜ける道を探すよりも、収入を増やすことに尽力し、堂々と「壁」を超えるように頑張ってみるのも悪くないかもしれません。

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com

 

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