「孝行のしたい時分に親はなし」という言葉がある。『大辞泉』(小学館)によると、親が生きているうちに孝行しておけばよかったと後悔することだという。では親孝行とは何だろうか。一般的に旅行や食事に連れて行くことなどと言われているが、本当に親はそれを求めているのだろうか。
「親孝行」とされることの一つに、「孫を抱かせる」がある。しかし、現代社会は少子化が加速している。特に都市部は深刻だ。
2024年4月19日、厚生労働省は、『平成30 年~令和4年 人口動態保健所・市区町村別統計の概況(人口動態統計特殊報告)』を発表。これは、1人の女性が一生に産む子どもの数を示す「合計特殊出生率」について市区町村別に分析しているデータだ。
2018年~2022年の市区町村別の合計特殊出生率を見ると、その約60%が、1.2以上1.5未満だとわかる。合計特殊出生率が最も高い自治体は鹿児島県大島郡徳之島町(2.25)、次いで同県同郡天城町(2.24)だ。トップ17位まで鹿児島県と沖縄県で占めていた。
一方、合計特殊出生率が低い自治体は、京都府京都市東山区(0.76)、次いで大阪府大阪市浪速区(0.80)だった。ワースト20位には、東京都、大阪府を中心とした都市部が並ぶ。
「孫は贅沢な存在だと思います」とは、首都圏の一戸建てで妻とともに暮らす紀雄さん(72歳)だ。紀雄さんは共働きの長男夫婦(ともに42歳)をサポートするために、孫娘(13歳)の世話を8年近くも続けていた。
保育園の迎えを通じて、地域のつながりを得た。保育園の迎えの多くは、祖父母が担当している。彼らと交流し、助け合って育てている実感があったという。しかし、紀雄さんの孫娘は8歳の時に、中学受験のための塾に通い始めた。その時、嫁から「娘が甘えるから会わないでほしい」と言われて、距離を置く。それから3年後、長男夫婦は離婚する。親権は嫁が得て、孫娘に会う機会は激減した。
【これまでの経緯は前編で】
長男夫婦の離婚原因は、嫁の浮気だった
0歳から8年間、ほぼ毎日のように一緒にいた孫娘に会えなくなってしまった時の気持ちを聞くと、「ああそうですか、って感じだった」という。
「我が子だったらそうはいかないけれど、孫には半分あの嫁の血が入っているから。きっとそのうちに、受け入れ難いほど卑しいところが出てくるだろうしね。最も可愛らしく、一番いい時期に一緒にいることができてよかったと思っています」
定年後の悠々自適な期間とはいえ、紀雄さんは8年ほど、子育ての戦力となり活躍した。この期間は海外旅行にも行けなかった。同じような仕事をベビーシッターに依頼したら、莫大な金額になるのではないか。長い拘束時間と責任と労働に、長男夫妻は対価を払ったのだろうか。
「何もありませんし、最初から期待はしていませんでした。今思えば、私が孫に献身したのは、嫁を信用していなかったから。私なりに孫を“真っ当な人間に育てたい”という思いがあったのかもしれません。あとはやはり、長男が可愛いいから。あいつが、仕事や自分の人生、幸せに集中できるように、親としてできることをしたかったんです」
紀雄さんが子育てを手伝っている間、長男は仕事に集中し、離婚直後に兼ねてからの希望通り、米国支社の勤務が決まる。
「息子も離婚して日本と距離を置きたかったのかもしれない。長期休みに帰国すると、私に色々話してくれますよ。今年の正月に帰ってきた時に、私が“お前も慰謝料や養育費の支払いがあるだろうから頑張れ”と励ますと、“養育費は一括払いした。慰謝料は発生していない”と言うんです」
離婚原因は、長男から「俺がどうしても耐えられなかっただけだよ」と聞いていた。女性に流された方が楽だと思っている長男が、離婚に踏み切ったことを紀雄さんは驚いたそうだ。離婚から2年が経ち「離婚の本当の原因は何だったんだ?」と質問する。
息子は「元配偶者の浮気と、俺のことを金づるとしてしか見なかったこと」と言った。さらに嫁は孫娘に「じいじが死んだら、あの大きなマンションや家が、パパのものになるのよ」と繰り返していたことも知った。
「かつて、孫娘から“じいじは、いつ死ぬの?”と聞かれていたんですよね。てっきり、私がいなくなるのが不安でそう確認しているのかと思ったら、実際は違った。孫は私が死ぬことを待っていた。笑っちゃいましたよ」
【孫が繋いだ長男との繋がりに、人間として満たされる……次のページに続きます】